成年後見制度の2つの種類をさくっと解説

その理由のひとつが、制度が複雑で難解なことだ。成年後見制度には、任意後見(①)と法定後見(②)の2種類がある。

任意後見(①)は、まだ認知症になっておらず判断能力が十分ある人が、将来、自分が認知症になった時に備えて、自分が選んだ人(子供、親戚、知人、弁護士、司法書士、社会福祉士、福祉関係の公益法人など)を後見人として契約しておくケース。ただ現実的には、元気なうちは「自分は認知症にならない」と思い込んでいる人も多く、実際にはこの任意後見人の準備をしておこうという考えには至りにくい。

もうひとつの法定後見人(②)は、当事者が認知症になるなど判断能力が衰えた人がつけるケース。法定後見人は家庭裁判所が選任した人がなる(主に弁護士、司法書士など)。本人の症状に応じて後見人の種類は3つある。本人に代わり、第三者の後見人が預貯金の引き出しや、契約などの行為ができるようになるため手続きが厳密になるのは当然だが、かなり煩雑だ。

この法定後見の場合、手続きはまず家庭裁判所(家裁)への申し立てからスタートする。申し立てには被後見人本人の戸籍謄本から始まり、申立事情説明書だの財産目録、親族関係図、親族同意書、医師の診断書など10種類以上の書類をそろえて提出する必要がある。

申し立てが済むと次に家裁で本人、申立人、後見人の調査などを行う「審理(申し立てに問題がないことを確認)」が行われ、「審判」を経て、「後見登記」にたどり着く。このプロセスに2~4カ月かかるそうだ。

厚生労働省【法定後見制度】精神障害者における保佐の活用編「成年後見はやわかり」のビデオ画面キャプチャ画像
厚生労働省【法定後見制度】精神障害者における保佐の活用編成年後見はやわかり」のビデオ画面キャプチャ画像

とりわけ法定後見(②)の場合、利用するには相当の手間暇がかかるうえに、「成年後見人をつけて良かった」という話を聞くことはあまりない。前述した難解な手続きとは別に「デメリットの多い成年後見制度」とか「成年後見人で地獄を見た家族」といった批判的な見方も多い。

成年後見制度の闇』(飛鳥新書)という書籍では、被後見人に寄り添い財産を守るという姿勢を持たず、割の良い稼ぎ口として見ている“ビジネス後見人”が多い実態が書かれている。

また、こうした問題のある後見人でなかったとしても、任意後見(①)でも法定後見(②)でも、弁護士・司法書士などに後見人を依頼すると1カ月あたり2万円程度の報酬を払う必要がある。これを大きな負担と感じる人も多いだろう。このように、ただでさえ制度の評判が芳しくないうえに冒頭に記した成年後見人による横領事件が起きた。これでは利用者が増えるわけがない。