夫との温泉旅行のための出費すら認められない
こうした状況を反映してか、成年後見人と利用している本人や家族とのトラブルがメディアで報じられるようになった。例えば、2022年暮れに放送されたNHK「クローズアップ現代」では成年後見人をつけて後悔している人が登場した。
不満をもらすのは認知症の夫を介護している妻だ。会社員として働いていた夫が脳梗塞を発症。それが原因で認知症になり、労災の認定を巡って会社と争う過程で司法書士が(前出②の法定)後見人がつくことになった。だが、生活に必要な最小限のお金が振り込まれるだけで、一家は不自由な生活を強いられることになったという。
番組内で妻は次のように訴える。
「主人は温泉が好きなので、連れて行ってあげたいが、後見人はその出費を許してくれない」
妻は夫が喜ぶことをして、笑顔を見たいという思いを持っているのだが、後見人は「温泉に行って病気が治るのですか?」などと気持ちを逆なでするようなことを言うのだそうだ。
妻は続けて、こう話す。
「成年後見人は家に来ることもない。そんな対応で、こちらは不自由な生活を続けている。といって、一度つけた成年後見人を簡単には解任することはできない決まりがある。今では成年後見人をつけたことを後悔している」
番組後半では、対照的に面倒見の良い成年後見人(司法書士)が登場。担当する人のもとに足しげく通い、本人や家族の意に沿うよう誠実に仕事をしている様子が紹介されたが、最初の事例のインパクトが強かったせいか、「成年後見人はつけないほうが良い」という印象が残った。
この番組の録画を、成年後見人を務めるようになって8年の経験になる司法書士のKさん(45)に見てもらい、専門家の立場から見解を聞いた。なお、Kさんは番組後半に登場した司法書士と同様、担当している被後見人や家族からの評判が良い後見人だ。
「この番組を見た人は、温泉に連れて行ってあげたい、という奥さんの思いを拒絶する後見人に対して憤りを感じるかもしれません。ただ、家族に頼まれたからといって、すぐに認めるようでは実は後見人失格なんです。長年、後見人をやっているとわかるのですが、家族に問題があるケースがかなりある。被後見人のためといいながら、自分がそのお金を使いたいという人がいるんです。この奥さんの場合はNHKの番組に顔を出して訴えているんですから、そんなことはないと思いますが……」
後見人は被後見人本人について、その財産を守る役目を負っており、家族につくわけではない。そのため、温泉に行かないという判断は仕方がない面があるという。それでも、Kさんはこの後見人にも問題があると指摘する。
「被後見人ご本人や家族に会いに来ないことです。司法書士の団体が設立した“リーガルサポート”という組織があります。成年後見人を務める司法書士を育成・監督したり、成年後見制度を利用したい方の相談を受け付けたりする組織ですが、ここでは成年後見人に対して被後見人や家族の元を訪問するよう指導しています。何度も会って話をしていれば、被後見人の方や家族の人柄や両者の関係性がわかりますからね。
信頼関係があって家族が自分のためではなく、被後見人のためにお金を使おうとしていることがわかれば、そのための出費は受け入れる判断もできるわけです。そうした地道な行動もせず、ただ財産を守る仕事をしていればいいという対応をしているような後見人は間違っています。ただ、担当する家を訪問するのはあくまで努力目標であって、会わない人がいることも事実です」