ひとり暮らしの高齢者の中には多くの資産を持ち、現金や貴金属などを自宅に保管している人が少なくない。認知症の初期症状がある74歳女性は同居していた障害を持つ40代後半の息子を突然亡くした。お金のにおいを嗅ぎつけ寄ってきた“輩”によって知らず知らずのうちに大金をむしり取られたが、女性は何の疑いも抱いていない。成年後見人を務める司法書士が語る、最近増えているそうしたグレーな案件の防止策とは――。
ストレスのたまった女性
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50万円以下ですむ葬儀なのに、請求は150万円

「認知症の高齢者、とくに身近に見守る家族がいない一人暮らしの方には、お金をむしり取ろうとする輩が近づいてくることが多いので要注意です」

そう語るのは、関東地方で成年後見人として8年のキャリアを持つ司法書士のKさん(45)です。最近遭遇した高齢女性の被害を話してくれました。

「Tさん(74歳・女性)の妹さんから連絡がありました。『先日、姉と会ったんですが、どうも言動がちょっとおかしい。認知症になったんじゃないか』というんです。Tさんはかなり前に離婚され、今は障害を持つ息子さん(40代後半)と首都圏の一軒家で二人暮らしをしています。妹さんが言うには“姉はけっこう資産を持っていて認知症になったとしたら、その管理が心配。息子の将来のことも気になるし、成年後見人をつけることを考えている。相談に乗ってもらえないか”と」

成年後見人には親族もなれるのですが、妹さんは群馬に住んでおり、近隣の専門家に頼んだ方が安心と思って伝手つてを頼って私に連絡してきたわけです。ただ、緊急の案件ではなかったので、後日、会って相談しましょう、ということになったそうです。

ところが、その1カ月間にTさんに重大な出来事が起きました。

「これは後で妹さんから聞いた話です。まず、息子さんが急逝されたそうなんです。葬儀をしたのですが、今はコロナ禍で簡素なものが主流。息子さんの葬儀も参列者は親族5人のみの家族葬だったんですが、妹さんによれば、会場は広いし祭壇は大がかりだった。それで後でTさんに費用を聞くと、150万円近くだったと。それもお坊さんにかかる費用を含まず葬儀社への支払いだけで。参列者5人の家族葬ならかかっても50万円程度が相場でしょう。大手の葬儀社だったそうですが、相手を見て、“この家は取れる”と思ったんじゃないですか。葬儀費用なんて素人はよく分からないものですし、ましてやTさんは最愛の息子を亡くしてひどくショックを受けているうえ認知症気味。息子さんのためならと、言われるがまま、祭壇は立派なものを、お花も飾って、と応じたらしいです」

50万円以下ですむところが、150万円……。3倍のコストも資産家のTさんには大きな損害とはいえなかったかもしれませんが、葬儀社の行為が意図的であれば、悪質です。しかも、重大な出来事はそれだけではなかったのです。