「案の定(モンスター長男は)激高し、顔を思いっきり殴られました」

Oさんは状況的に今回の事件の親子と状況が酷似したケースを経験している。

「90代の母親を60代半ばの長男が介護していたんですが、その長男が“モンスター”でした。ケアプランを作り直せと言ってくるのは序の口で、介護サービス職員の態度が気に入らないとか技術が未熟だとか、何かにつけてクレームを入れてくる。また、その長男は統合失調症を患っており、ストレスに弱く感情コントロールが苦手なせいか母親に暴力を振るっていたんです。現場を見てはいませんが、母親の体にはあざがありましたし、長男の言動には常におびえていました。

この状況を放置しておくわけにはいきませんから、意を決して男性の同僚2人をボディガードにして話し合いに行ったんです。このままではケアを続けられないと伝えると、案の定、激高し顔を思いっきり殴られました。すぐに警察に連絡しました。警察沙汰になれば、行政サイドも動きますからね。母親は施設に措置入所、長男は精神病院に入院しました」

このような経験をしたOさんは、今回の事件をこう見ている。

「犯人から『線香をあげにこい』といわれた医師は(報道によれば)総勢7人で男の家を訪問したそうです。これまで接してきた経験から、何をされるか分からないという危険を察知していたと思うんです。だから大勢で行った。ただ、誤算がありました。男が猟銃を持っていたことです。私の場合は幸いにも相手は武器を持っておらず、殴られただけで済みましたが、その違いだけなんですよね。それを思うとゾっとします」

警察の取り調べが進むと、今回事件を起こした家庭を数年前に担当したケアマネジャーにも「線香をあげにこい」という連絡をしていたこともわかった。しかし、容疑者のモンスター的性格を知っていたケアマネはそれを拒否した。

「この対応が正解ですよ。亡くなった医師は良い人すぎたのかもしれません。トラブルメーカーであることは認識していたはずですが、最愛の母親を亡くした男を気の毒に思ったのか、訪問してしまった。ひょっとしたら最愛の母親を亡くした男を気の毒に思ったのかもしれません。でも、医療関係者にしても介護業界の者にしても、相手が亡くなるまではケアに尽力しますが、弔問まで付き合う義務はない。医師の患者と家族を思う優しさがあだとなってしまったのではないでしょうか」

火のついた線香と数珠を手にするシニア女性
写真=iStock.com/Yuuji
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