漫画のエピソードは実話だった
その夜、失意の島は中沢に連れられ、屋台のおでん屋で酒を飲みました。島は「すみませんでした。私は自分がいかに底の浅い人間かを思い知らされました」「サラリーマン失格です」と話し、自己嫌悪から立ち直れずにいます。
すると、その様子を見た中沢は、「気にするな、何てことはないさ。久々にバカやって結構面白かったぞ」とフォローしつつ、かつて京都営業所で販売店回りをしていた頃、宴席に呼ばれて「お座敷相撲」を取らされた……という苦い思い出を語るのですが、この話、半分ほどは実話なのです。
松下電器の京都営業所に配属された同僚から聞いた話です。
一流大学の大学院を出たインテリの彼が、取引先である販売店の宴席に呼ばれ、パンツの上からふんどしを締めて、みんなの前でまわし姿となり、三味線と太鼓に合わせて「お座敷相撲」を取らされたというのです。
彼はそのときのことを振り返りながら、「大学院での勉強は何だったんだ……と思った」とこぼしていました。
「これが会社なんだ」
ぼくはこの同僚の話を中沢の経験談に置き換え、次のように語らせました。
そのとき、思ったよ。
大学院まで行って、あくせく勉強したことは何だったんだろうってね。
マルクスもケインズもぶっ飛んだよ。
これが会社なんだ。
男の仕事というのはこういうものなんだ……ってわかった。
脆弱な知識とかプライドとかは関係ない。
わかってしまえば、あとは怖いもんなしだ。
仕事にも自信がわいてパワーもついた。
島は、会社という組織の中で仕事を進めていくためには、「学歴も知識もプライドも何の役にも立たない。正義も常識も通用しない」ということを改めて知り、サラリーマンとして自分の甘さに気づきます。
中沢との出会いは、文字通り、その後の島の人生を変える出会いとなるのです。