会社員にとって、どんな上司のもとに配属されるかは最重要事項だ。もしも、無謀な計画を精神論で推し進め、ハッスルしているような上司にあたってしまったら、どうすればいいのか。池上彰さんと佐藤優さんが最良の対象法を伝授する――。

※本稿は、池上彰・佐藤優『組織で生き延びる45の秘策』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

正面突破に固執して多数の犠牲者を出す…中でも「白襷隊」は悲惨

【佐藤】最初の質問は、「業績悪化で会社が傾き、上司が精神論で乗り切ろうとします。どうやっても合理的ではないのですが、どうやって対処すればいいですか」。

【池上】なるほど。日本全国の組織にありそうなことです。

佐藤優氏
佐藤優氏(写真提供=中央公論新社)

【佐藤】はたから見れば合理性のかけらもないことが、どうしてもやめられない。それはなぜなのか? そういうことを解明するうえで、乃木希典のぎまれすけの行動様式を勉強することには、大きな意味があるのではないでしょうか。

【池上】乃木希典は日露戦争で第三軍司令官として難攻不落の旅順りょじゅん要塞を陥落させ、戦前においては、日本海海戦でバルチック艦隊に壊滅的な打撃を与えた海軍大将の東郷平八郎と並び称された人物ですね。

【佐藤】日露戦争を振り返ってみましょう。ロシア軍が陣を置く旅順要塞の攻防戦で、あくまで「正面突破」に固執した乃木だったのですが、三度白兵戦に臨んだ部隊が、ことごとく全滅に近いことになってしまいます。

【池上】日本の初期の頃のコロナ対策でもさんざん批判された、戦力の逐次投入による失敗です。

【佐藤】しかし、それにも懲りずに、「最後の手段」とばかりに組織したのが「白襷隊しろだすきたい」でした。

【池上】史料によれば、3100名余りからなる「要塞切り込み隊」で、夜間にロシア軍の砲台を奇襲するという作戦でした。なぜ「白襷」かというと、暗闇で見方を識別するために、兵士たちが白い襷をかけていたからなんですね。ところが、これが見事に逆効果で、ロシア軍の探照灯に照らされて、敵にも目立ってしまった。結果、集中砲火を浴びて、あえなく退散する羽目になりました。事ここに至り、乃木は要塞正面からの攻撃をようやく諦め、その西に位置する二〇三高地の攻略に方針転換するのです。

乃木は、白襷隊の出撃に際して、将兵たちに「諸子ガ一死君国ニ殉ズベキハ実ニ今日ニ在焉」と自ら言葉をかけ、激励したそう。そう言われても、事実上無駄死にした兵士たちは、たまったものではありません。