「下手に理系に進むと損をする」博士就職率の低さ

戦後、日本は「文高理低」とでも言えそうな組織文化をはぐくんできた。法学部、経済学部など文系出身者は、会社でも霞が関の官庁でも出世していくが、理系出身者はそうではなかった。

「理系は専門知識があり論理的だが、社会性が不足している」とか、「文系は柔軟で付き合いやすく、マネジメントができる」などといった、高度成長期や年功序列時代の価値観や固定観念が今も残る。

理系は大学院へ進学する人が多いが、日本では博士課程出身者の就職率が低いという問題もある。大学教員のような安定したポストに就けるのは一握り。企業へ就職したくても、企業は博士課程出身者を「年を食っていて、使いにくい」と、採用したがらない。

定職に就けず、3~5年と任期が限られた仕事を転々とする「ポストドクター(ポスドク)」として過ごさざるをえなくなることも多い。「末は博士か大臣か」と期待されたのは、はるか昔。今や「高学歴ワーキングプア」と呼ばれることもある。こうした事情もあって、2003年度をピークに大学院博士課程への進学者は減り続け、日本の科学研究力低下の大きな原因と見られている。

「下手に理系に進むと損をする」――。長年かけて培われたこうした考えを拭い去らないと、理系に進学しようという人は増えないし、大学も受け入れを狭めていくという負のスパイラルに陥る。これでは数学力は育たない。

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「新卒1000万円」を打ち出す企業も現れているが…

2000年代に入りデジタル化が進むと、少し風向きが変わり始めた。IT関連や金融業界などで理系出身の経営者が登場したり、高いデジタル技術や能力を持つ新卒社員に年収1000万円を提示したりする企業も現れたからだ。

こうした追い風を生かし、優秀な数学人材を育て、日本のデジタル力を向上させる、という好循環につなげていきたいものだ。

ただ、これから国内に爆発的に数学に強い人材が増えるかとなると、心もとない状況だ。なんと言っても将来像が見えない問題は大きい。

11月にオンラインで開催された数理科学の研究者と産業界の研究交流会では、東大発の数学ベンチャーの社長が、数学を生かした事業や計画など、幅広い活動領域があることを講演した。こうした活動を通じて、数学を学ぶ意義や、人材不足がもたらす損失などをもっと社会に伝えていく必要があるだろう。