こうした動きに目をつけ、「数学はビジネスになる」と訴えたのが経済産業省だ。2019年に報告書「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える」を発表し、世間を驚かせた。産業を所管する経産省が「数学」と言い出したこと、「数理資本主義」というキャッチーな言葉、そして内容も「役所がここまで言うのか」と。

報告書にはこうある。「第四次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先に進むために、どうしても欠かすことのできない科学が、三つある。それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!」「デジタル技術の動向は数学が左右している」――。

霞が関の役所とは思えないような熱い言葉が並ぶ。そして、数学ができる人求む、とアピールする。だが、そこには大きな「壁」がある。

韓国、中国よりも順位が低い日本

経産省が「もっと数学を!」と言いたくなるほど、日本のデジタル力は振るわない。コロナ禍で「デジタル敗戦」と呼ばれ、世界との競争力も低下の一途をたどっている。

今年9月にスイスのビジネススクール「IMD」が公表した2021年の「世界デジタル競争力ランキング」によれば、日本の総合順位は28位で、18年以降、右肩下がりが続いている。1位は米国だが、日本は韓国(12位)、中国(15位)、マレーシア(27位)などよりも低い。

実は、日本の子供の数学力は高い。15歳を対象にしたOECD(経済協力開発機構)の国際的な学習到達度調査「PISA」の2018年版では、日本の「数学リテラシー」は世界トップレベルで、OECD加盟国中1位だ。前回の2015年版調査でも同様の結果になっている。

世界の高校生が数学を解く能力を競う「国際数学オリンピック」でも、日本はかなりの数のメダルを獲得してきた。107の国・地域が参加した2021年の国別順位は25位だったが、2009年には2位になった。

だが、子供時代の数学力がデジタル力へと結びついていない。数学ができる成績の良い子供たちは、医学部へ進むことが多い。親も自分の子供が数学など理数系が得意なら、医学部進学を勧める。数学を学んでも将来どういう就職先があるかはっきりしないからだ。そこからまず改善していく必要がある。

さらに、長年続いてきた日本の組織文化の影響も大きい。