「災害大国ニッポンを『防災大国』に転換させる」。島田氏は連携する企業とともに、命を守る製品、インフラ開発で国際標準規格化のルールメーカーとなって、本気で世界に打って出る気だ。

1日分の栄養を補えて、賞味期限は5年以上

企業の関心を引き寄せるきっかけとなったのが、ワンテーブルが手がける防災備蓄ゼリー。同社は「100年改善しない」と言われた備蓄食で世界初の5年半常温保存可能なゼリー商品「LIFE STOCK」の開発に成功した。

ラインナップは、食物繊維やビタミン類の補給を考慮したバランスタイプ(アップル&キャロット、税別168円)、2袋で乾パン1缶分相当のカロリー(100g400kcalを想定)が摂取できるエナジータイプ(グレープ、ペアー、各同298円)、熱中症対策用のウォーターブレイク(ソルティオレンジ、同320円)の3種類。

写真提供=ワンテーブル
3.11の極限状態の教訓を生かして開発したワンテーブルの防災備蓄ゼリー。東急ハンズやネット通販などで販売している。

被災直後の極度のストレス状態でも甘さを感じられ、食べられる人を選ばないゼリーの開発を目指したが、ゼリーは日持ちしにくく長期保存には向かない。その課題を乗り越えようと、空気中に触れない特殊充填技術、4層構造の包装技術に改良を重ね、独自のレシピ開発によって「賞味期限」との格闘を制した。

電気や水、ガスなどを使わず日常的に万人が食べられるだけではない。地方の特産品や企業ブランドとのコラボで発信力を高め、廃棄寸前の農作物の活用にも道を拓いた。食品ロスや賞味期限など商流の社会課題をまるごと引っくり返すような画期的な商品開発と称される。そこに、島田氏は私財を投じながら7年の歳月を費やした。

配られるのは水がないと食べられないものばかり

東日本大震災では、なんとか避難所にたどり着いたにもかかわらず、体調不良が原因で命を落とした人の数が3000人超に上った。背景には、飲み込みが苦手な高齢者や乳幼児、アレルギーを抱えている人たちの存在のほかに、炊き出しで炭水化物中心の偏った食生活が続くことによる栄養状態の悪化があった。

「過去のどの災害の文献を見てもすべてインフラが止まっている。備蓄食で必要なのは水がなくても誰もが食べられるものなのに、配られるのは水がないと食べられない乾パンやアルファ米。乾パンなんかは戦中からまったく変わっていない」と島田氏は指摘する。

災害で大切な人を亡くし、ショックを受けた人々は食べることすらままならないのが実情だ。栄養素の不足は、体力低下、免疫力の低下などを引き起こし、風邪や感染症のリスクが高まる。被災後も守れたはずの多くの命が失われた悔しい経験が、島田氏のビジネスの原点になった。