億を超える年商で当時は「いい気になっていた」が…

震災を境に、島田氏のお金や仕事に対する価値観は、根底から変わっていったという。

震災前までは、農家と地域や行政をつなぎ、「現場」でしか見えない答えを突き合わせ、現状打破に道筋をつける。持ち前の行動力とスピード感を強みに、企業向けにコンサル会社の経営なども同時に手掛け、25歳で年商は億単位。貯金も3億円はあったという。

「当時は超とんがっていました。地方再生のプロとか言われていい気になっていたんでしょうね。ドキュメンタリー番組に取り上げられたりして。でも、今はもう再生のプロとか、そんなのはどうでもよくなったんです」

避難所で目の前で苦しむ人のために動き、「生まれて初めて人のためになっていると思えた」。一人でも多くの人を助けたい一心で、億単位の資産を使い切ったとき、「あぁ、自分はこのためにお金を稼いできたんだと思えた」と振り返る。

「ひたすら前に進むだけ。一番大きいのは仲間が死んだことです。目の前で人が流された。あの時の苦しみはもう嫌。あの時一生分泣き叫んだので、もう明るい未来しかない。だから、どうやったら現状を変えられるのか、それだけを考える」と島田氏はいう。

「以前は、コンサルとして人に頭を下げたことなんてなかったけど、今は一緒にやりませんかってピュアに言える。子どもたちにとって、より良い未来をつくりたいですから」

風化しても構わない。でも「仕組み」を創りたい

今年も、各地で台風や豪雨による河川の氾濫や土砂崩れが相次ぎ、新たにパンデミックという“災害医療”への対応も問われるようになった。その一方で、東日本大震災をはじめ、阪神淡路大震災、中越沖地震など過去の災害は「教科書の1ページ」になり、“風化”の一途をたどる。

人の命に関わる点においては、「災害」だけでなく、時間の経過とともに記憶が失われていく「戦争」も同じ課題を抱えている。二度と戦争を繰り返さないための外交努力は、いつでも政治の最重要テーマであり、国民の“監視”もあり続けるが、防災は果たしてどうだろうか。

「つらい記憶は忘れたいから『風化』で構わない。でも、大事なのは実際に何が起こったのかを伝え、繰り返さないために『社会的な仕組み』を新しくつくっていくことです。人が起こす戦争は、人の考え方や内面が成長することで止められるけど、災害は止められない。でも、テクノロジーの成長によって被害を抑えることは可能です」と島田氏はいう。

自治体職員に防災備蓄プラットフォームの特徴や使い方を説明をするベル・データの社員(左)ら=沖縄県豊見城市
筆者撮影
自治体職員に防災備蓄プラットフォームの特徴や使い方を説明をするベル・データの社員(左)ら=沖縄県豊見城市

日本は災害大国でありながら、その仕組みづくりを後回しにしてきたのではないか。

「たとえ面倒くさい作業であったとしても、国がルール化して国民の生命と財産を守る、安全安心な社会にする。みんなが気づかないことを伝え、凝り固まった現状を変えさせる。それが政治のなすべき本来の仕事ではないでしょうか」と話す。