「災害の翌日から仮設住宅まで追った人は私ひとりしか存在しない。ビジネスプロデューサーの経験と立場で、行政の中身も分かる。何が必要か。どうしたら効率的に動かせるか。わたしの中に、一つの答えがある」
避難所の現場を基点に、「食」への関わりにとどまらず、あらゆる産業、事業分野で「やるべきこと」が見えてきたのだという。
備蓄状況を共有するため自治体のシステムを変える
だからこそ、企業連携で生み出した“解決策”を担いで、島田氏は自治体の現場にも入り込む。
資本業務提携するIT企業ベル・データ(東京都)のシステム開発力を頼りに、各自治体が倉庫に保管する備蓄品の在庫や賞味期限情報をテクノロジーで見える化。地域の人口動態に応じて、災害発生時に不足する食料や備品を地域住民や近隣企業と補い合うことを想定した「防災備蓄プラットフォーム」の導入も後押ししている。
このシステムで管理すると、自治体が管理する備品の出入りを全ての課で把握し、無駄や不足をなくすことが可能だという。全体の量と物の動きが分かって初めて、足りない分が見えてくる。災害発生でいざライフラインが途絶えると、食料や物資の供給は行政の備蓄だけでは到底賄えない。「このシステムをベースに備蓄状況を共有することで、住民や企業に自助や共助の具体的な準備を促すことができるようになる」(島田氏)
表向きは備蓄管理のシステムでありながら、自治体業務全体のデジタル改革を助ける意図を潜り込ませた。日頃の業務の効率性が、「非常時」のすべての対応に関わってくることを、痛感しているからだ。
腰の重い役所に島田氏がかける一言
ベル・データが開発した防災備蓄プラットフォームは2020年から、経済産業省の事業を通じてワンテーブルとベル・データが共同で立ち上げた「スーパー防災都市創造プロジェクト」として、全国12都市で実証実験が始まっている。ベルの担当者と共に島田氏も自ら、担当職員のみならず、首長や議員らに防災施策に対する経験や考え方を伝え、膝づめで議論する。
今年度はさらに、実証ステージを一段階引き上げた。和歌山県・南紀白浜エリアなど全国5地域を指定し、自治体をまたいで備蓄情報を共有し合う「広域利用」の課題を潰しにかかる。
当然、防災対応を想定したシステムの更新には、感度の低い、優先順位が上がらないという自治体も少なくない。そんな自治体の長や担当者に、島田氏は伝えるべき圧倒的な「言葉」を持つ。
震災直後、「あの時」「あの現場で」何が起きたのか。
「気づいているのに動かないのはやる気がないのだから仕方がない。でも、たった一人の首長や担当者のために、あなたの町に暮らす何万人の人の命が犠牲になる。それが人災というものです」と。