欧米式の国家統治は通用しない
アメリカや旧ソ連などの大国がアフガンをうまく統治できないのは、彼らが考えるような「国家」の形態をとっていないからだ。そもそもタリバンは、政権を担う政党ではない。統治能力が弱いことは自分たちもよく知っており、官僚などには国外に逃避しないで仕事を続けてほしいと言っているし、諸外国にも軍が撤退した後でも民間企業は残ってほしいと言っている。トルコにはカブールの空港運営を依頼している。
94年に誕生したタリバンは、パシュトー語の「神学生たち」が原義で、パキスタンのアフガン難民キャンプにあったスンニ派の神学校を母体としている。隣国パキスタンは陰のスポンサーで、今回の素早い制圧も、明らかにパキスタンが支援している。中国と並んで、パキスタンの動向にも注目したほうがいい。
神学校が母体だったことから見ても、“イスラム原理主義の普及団体”と捉えたほうが実態に近い。私たちが「国家」と呼んでいるもの――国民がいて、憲法があり、国境があり、軍隊があり――という欧米的な国民国家の統治とはだいぶ違う。
それでもタリバンの勢力が衰えないのは、国内に多くの支持者がいるからだ。対ソ戦争後に内戦で疲れ切ったアフガン人たちに、タリバンはイスラム教にもとづく規則や秩序の確立を唱えた。これが、部族社会のなかで影響力のある長老たちに支持されたのだ。
日本や欧米でタリバンといえば、世界遺産であるバーミヤン渓谷での仏像爆破や女性に対する人権侵害などの非道な行為が思い浮かび、アルカイダやISとほとんど区別がつかない。
タリバンに言わせれば、「それは誤解で、自分たちはイスラム法に則って統治したいだけだ」となる。アメリカ型の統治に反発してきたのも、イスラムの教義を強制するのではなくて、納得して従う人たちが増えるように普及したいだけだ、と主張しているように見える。アルカイダやISとは違う組織だというキャンペーンも進めている。特にISとは対立関係にあり、すでに双方が無秩序テロ攻撃を仕掛け合っている。
だが、本当にタリバンの言うとおりに進むかはまだわからない。北部同盟を率いた故アフマド・シャー・マスードの息子アフマド・マスードも、タリバンとの話し合いが決裂すれば、カブール北方のパンジシール渓谷を守るために戦闘も辞さない、と語っている。しばらくはアフガンを中心とした国際情勢の変化が、世界にどのような影響を与えるか注意深く見守っていく必要があるだろう。