意見の妥当性を確かめ、主張の妥当性の幅を広げる
[3の問いの技法:「それは、他のすべての事例に当てはまりそうですか?」]
この問いが一番ハードな問いかけ(簡単に答えられない問い)です。しかし、その分だけ議論を最も鋭くすることができます。
この問いは、「思考の護身術」としても用いることができます。稀に、「自分の考えていることが世界共通の認識だ」と言わんばかりの態度で発言する人がいるのですが、こうした人に対しては、まずこの問いで相手の主張をブロックする必要があります。それでも意見をゴリ押しして来る人に対しては、上司やしかるべき第三者に相談することをお薦めします。
もちろん、この問いは護身術という意義だけでなく、「何が本質的な意見なのか?」という点を見定めていくときにも大きな効果を発揮します。
例えば、「本を読めば必ず頭が良くなる」という主張に出会ったときに、「それは、他のすべての事例に当てはまりそうですか?」と問うことは非常に有効です。なぜなら、そこから「どのようなジャンルの本でもよいのですか?」、「どのような読み方をしてもよいのですか?」という問いが派生的に提出されうるからです。
当然ですが、想定されている事例が少なければ少ないほど、意見の妥当性の幅は小さくなります。逆に、様々な視点を包含している(想定される反論に先回りして対応策や代替案を提示できる)意見の方が、妥当性の幅は大きくなります。
この「妥当性」をお互いに問いかけ合い、より「抜け漏れ」の少ない意見を導き出していくというプロセスこそが、対話的思考を用いた議論です。
一緒に妥当性の高い議論を練り上げていくのか、それとも一方的に相手の妥当性の低さを非難して終わるのか。それこそが、「対話的思考」と「論破的思考」の違いなのです。
池上彰さんや増田ユリヤさんは良いモデルケース
3つの問いかけを実践できている方として、例えば「問いかけ」を基調とした語り口をされる池上彰さんや、池上さんと共に各種メディアでご活躍されている増田ユリヤさんなどは、良いモデルケースになると思います。
議論を行うとき、人はしばしば「結論ありき」になってしまい、断定的な口調で喋り続けてしまう人が数多く見受けられます。しかし、池上さんや増田さんは「○○の場合を想定してみるとどうなるでしょう?」、「どうして○○なのでしょうか?」、「○○という経緯があるわけですよね?」などの「問いかけ」を軸に議論をされますので、対話的思考に根差した語り方・論じ方を日頃実践されている方々であると言えます。