だから、ソフトウエア開発企業はCMMIのレベル上げに必死になる。個人レベルでいえば、いわゆるアーキテクチャーまで構想できる「システムエンジニア」がどんどん育っていく。こういうことも1つの背景にあって、アメリカがソフトウエア大国になっていったわけだ。またインドのソフトウエア大手はコストが安いからではなく、レベル5故に世界中から安心して発注を受けている。

一方で、日本の役人は学生時代はテストができたかもしれないが、文系ばかり。正解・前例がある問題を解くのは得意だが、コンセプトをつくって、システムを設計するという創造力・構想力は貧弱だ。発注側は自分たちでデザインできないから、自分たちの職場に臨時の席を設け、ITゼネコンから派遣されたコンサルタントを常駐させて、システム設計を丸投げするに至るのだ。

マイナンバーが失敗しているもう1つの理由

マイナンバーが失敗しているもう1つの理由は、データベースが役所起点になっているからだ。本来は人間(国民一人一人)が起点になってデータベースを構築していかなければいけないのに、「健康保険や年金は厚労省、運転免許証は警察庁、パスポートは外務省、住民票は市区町村……」というように、役所ごとにデータベースをつくっている。役所ごとにシステム発注をして、業者選定をしているから、同じマイナンバーシステムであっても、市区町村ごとに異なるベンダーがシステムを開発している状況が生まれる。

開発ベンダー側も、競合他社に仕事を奪われたくはないから、他社が容易に改修などできないようにシステムをガッチリと構築する。そうなると、システム同士の相性が悪くなり、それを噛み合わせて統合しようとすれば、悪名高いみずほ銀行のシステムのように、いざ統合というと何十年にもわたり苦闘することになるのだ。

そもそも中央集権の日本は、国民データベースとは相性がいいはずなのだ。これがアメリカであれば、州ごとに法律があり基準が違うから、国全体で国民データベースを運用するのは非常に難しい。しかし、日本は地方自治と言いつつ、憲法第8章によって地方公共団体は国が決めたことしかできない。従って基準が1つしかない日本の場合、国民データベースは人間起点でつくれば1つのデータベースで済んで、適用する基準も一律同じでシンプルだから、国民データベースの構築・運用は本来はやりやすいはずなのだ。

しかし、12省庁・47都道府県・1718市町村・23特別区などがそれぞれバラバラにシステムを開発してしまっているがために、今のような「費用対効果の悪い」マイナンバーシステムができあがってしまう。これをマイナポータルと言ってバラバラなものを統合すればなんとかなると考えているが、昔からコンピュータ業界で言われているように「ゴミを集めればゴミの山となる」だけの話だ。