なぜ政府が開発するシステムは、こんなにも「使えないシステム」ばかりなのか。その第1の理由は、政府に発注者としての知識と経験がないからだ。システム全体の構成を的確に捉える「構想力」がないのも問題だが、それを持つ人材を発注者にしていないことが原因と捉えてもいい。

政治家や官僚は、どういうシステムをつくったらいいかイメージができない。イメージできないのでどうするかといえば、システム開発を請け負う企業、いわば「ITゼネコン」を呼んで、すべてをぶん投げてしまうのだ。これは泥棒に鍵を渡す行為に等しい。

さらに言えば、政治家や官僚がITゼネコンに声をかけると、ITゼネコン側は、役員など立場の上の人が永田町・霞が関を訪ねる。そのITゼネコンのお偉いさんというのは、実はスマホどころかパソコンにすら疎かったりする。彼らが現場で働いていた時代のコンピュータシステムは、PC以前の大型コンピュータなど旧世代のものだからだ。コンピュータは急速に進んできたこともあって、役員クラスは最新のシステム事情についていけていない。

システムについてよくわかっていない者同士がシステム開発を発注・受注しているから、システムの設計図はお互いに描けないまま。そして、できないことを下請け企業、孫請け企業に押し付けていく構造になっていくわけだ。

関連する企業が増えれば増えるほど、システム自体も複雑化していって、全体を把握できる人がいなくなる。だから、不具合を発見することも難しくなるし、マージンを手数料として取っているから開発費は膨らむし、ユーザーにとっても使い勝手が悪いものになるのだ。

欧米企業ではデザイナーが活躍

アメリカやヨーロッパの企業は、建築業界にせよ、システム開発にせよ、何かをつくろうとするときに「ゼネコン」を呼ぶことはない。欧米企業が最初に声をかけるのは、コンセプトをつくる「デザイナー」である。

日本の場合は、ゼネコンが「100人×5年でできます。費用はこのくらいになります」というレート(人工にんく)の話をしがちだが、欧米の場合は「こういうコンセプトにして、こういうシステムにしたらどうだろうか。類似のコンセプトだと、こういうシステムをつくった会社がある」といったようにデザインの話になるのだ。

また世界には、CMMI(能力成熟度モデル統合:Capability Maturity ModelIntegration)というものがあり、ソフトウエア開発の手法・プロセスが体系化されている。CMMIは、米カーネギーメロン大学ソフトウエア工学研究所によって開発された、組織におけるシステム開発の能力成熟度モデルで、5つのレベルが規定されている。これはアメリカ政府等の調達基準として利用されていて、例えば「レベル4以上の企業でないと政府が発注するシステム開発に携わることができない」というようになっているのだ。