2024年7月13日、米国ペンシルベニア州バトラーで行われた共和党の集会で大統領再選を目指すトランプ氏が銃撃され、耳を負傷した。犯人は20歳の白人男性で同州在住。日本大学危機管理学部教授の福田充さんは「今回の容疑者はホームグロウンでローンオフェンダーという、近年のテロリズムの特徴にぴったりと当てはまる。実行前は一般市民だけに、監視対象になりにくい」という――。
星条旗とアサルトライフル
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トランプ氏を撃った青年は「地元育ち」で「単独犯」という特徴

ペンシルバニア州での共和党ドナルド・トランプ氏のアメリカ大統領選挙演説会で発生した銃撃事件の容疑者はトーマス・マシュー・クルックス、20歳の白人男性であった。近年のテロリズムの特徴である「ホームグロウン」(事件のあった国内で育った人)の「ローンオフェンダー」(組織に属さない単独犯)にぴったりと当てはまる。このホームグロウンでローンオフェンダーによるテロは成功しやすい。

この特徴をもつテロリストによる犯行がなぜ成功しやすいかといえば、ごく普通に地域で日常生活を送っている地元住民であり、その国で生まれ育った母国民であれば、一般市民として目立たず、監視対象になりにくい。そのように生まれ育った母国で、または居住環境に近い地域で犯行を起こす人のことを「ホームグロウン・テロリスト」と呼ぶ。

かつては、外国人が他国においてテロを実行する事例は多く、中東や各国でテロを繰り返した日本赤軍や、欧米でテロを繰り返したアルカイダなどのテロリストは、外国からやってきたテロリストであった。しかしながら、2001年のアメリカ同時多発テロ事件、すなわち9.11テロ以降、テロリストやテロ組織メンバーが国境を移動することができないように、出入国管理は厳しくなり、テロの水際対策が強化されたことによって、国際テロは困難な時代となった。その結果、国内で生まれ育った一般人が引き起こすホームグロウン・テロでしか、犯行が成功しにくいという時代になった。こうしてテロリズムの潮流は国際テロから、ホームグロウン・テロに移行した。

国内で生まれ育った一般人が引き起こすホームグロウン・テロ

また、かつてはアイルランド共和国軍(IRA)や赤い旅団などのように、テロリズムは明確な政治目的をもったテロ組織が実行するものであった。しかしながら、これも9.11テロ以後、テロ対策として防犯カメラや、通信傍受など監視が強化されることにより、複数人からなる団体が組織的に、連絡を取り合い、会合するような過程において、犯行が事前に発覚しやすくなった。そのため、現代においては組織的なテロ事件は先進国では困難となり、組織的なテロから、1人で実行するローンオフェンダーによるテロが主流となった。このようにたった1人でテロを実行するテロリストを、かつては「ローンウルフ」(一匹狼)と呼んでいたが、現代では「ローンオフェンダー」と呼ぶようになった。

今回、トランプ前大統領を銃撃した犯人も、FBI等の警察当局や政府で発表されている現段階(7月19日)の情報では、母国の地元育ちのホームグロウンであり、組織的背景のないローンオフェンダーであったといえる。