クルックスがトランプ氏を撃ったような事件は防げるのか
クルックス容疑者は高校卒業後、介護職に就き、働いていた。ライフル銃を父親に買ってもらい、合法的に取得し、射撃クラブで練習をしていた。そして、かつて、共和党員に登録した経歴もある(編集部註:民主党系組織に寄付した経歴もある)。そのような20歳の白人男性が、なぜ共和党のトランプ前大統領を銃撃せねばならなかったのか。トランプ氏の大統領選挙勝利を阻止したかったのか、第1回テレビ討論会の結果がトリガーとなったのか、それらは犯行動機の仮説の一つであるが、それを裏付ける合理的根拠は何一つ存在しない。
このような、犯行の動機が不明確である「新しいテロリズム」と私たちは向き合わねばならない。それが要人暗殺テロであれば、なぜ明確な動機のない暴力によって、民主主義社会における市民のリーダー、指導者が標的となり、命を奪われなくてはならないのか。全く不可解で理不尽な政治的暴力を防ぐ手立てはあるのか、考えなくてはならない。
ローンオフェンダーに対する今回の警備体制は甘すぎた
事件発生時、クルックス容疑者とトランプ前大統領との距離は、約130m前後だったといわれている。これは、プロのスナイパーなら容易に標的を仕留められる距離である。なぜこの演説会場から130mしか距離のない建物の屋上が、要人の警護隊によって、地元警察によって、事前に確認され、封鎖されていなかったのか。この場所はアクセスできない状態でなければならなかった。それが要人警護の基本であり、警備態勢の構築である。これを危機管理学では「セキュリティ」という。
この警備計画の不備により、クルックス容疑者は自動小銃を持って堂々とこの場所に上り、悠々と射撃の準備をして、トランプ前大統領を銃撃することができた。それを許したこと自体が警護隊や警察の過失であり、失敗である。
確かに日本においては、首相や大臣クラスの警備では、ここまでの広範囲な封鎖は行わない。それは日本が銃社会でないことも影響している。しかしながら、そんな日本でも天皇や皇室であれば、首相の警護では実施しないレベルの警護体制が敷かれる。また外国の要人が集まるサミット会場や、外国の要人が宿泊する迎賓館の周辺では、かなり広範囲に高度な警護体制が敷かれる。