総務省の官僚はなぜ安易に接待を受けたのだろうか。精神科医の和田秀樹氏は「東大卒の官僚たちは若い頃からチヤホヤされ甘やかされる。先輩や同僚も同じだから、自分もその価値観に染まる。彼らは酒席でも誰かにビールを注いでもらうまで待っていて、人に注ぐことはしない」と指摘する——。
ガラス瓶からビールを注ぐ手
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同窓会で酒を注がれるのをひたすら待つ者……たいていは官僚

総務省の接待問題はとどまるところを知らない。

菅義偉首相の息子らから高額の接待を受けたことで、当時、総務審議官でその後、内閣広報官に抜擢された山田真貴子氏が辞任に追い込まれたと思えば、今度は東北新社だけでなく、NTTの社長や前社長から高額接待を受けていたことが明らかになって総務省ナンバー2の谷脇康彦審議官が更迭された。その後も接待漬けの関係が次々と明るみに出ている。NTTと総務省はまさしくズブズブの関係だと言えよう。

山田氏は女性官僚のトップに君臨する勢いを持っていたし、谷脇氏は事務次官が確実視されていたので、退官後のポストも含めて失ったものは大きい。

旧自治省と旧郵政省が合併してできた総務省は強大な許認可権を有し、東大卒の官僚の中でも優秀とされる人材が集まっている。その中で、東大卒でないのに出世競争を勝ち抜いたこの2人、さらにその周囲にいる、今後何らかの処分を受けるであろう東大卒エリート官僚たちのような文字通り「賢い人」が、なぜ法制化されている倫理規定を破ったのか。

本連載は「賢い人をバカにしてしまうもの」というテーマで書いているが、賢い人をもっともバカにするもののひとつに周囲の環境というものがある、と私は考えている。

灘高校を卒業して10年目くらいに同期会のようなものがあり、久しぶりに旧交を温めた。私は東大理科3類(医学部)に進んだが、文系に進む者も多かった。民間企業に就職した彼らには共通点があった。みな愛想がよく笑っているのだ。

「おう、和田、最近、ようテレビ出とるやんけ、ま、一杯飲めや」

そう言ってビールを注いでくれるし、私も相手にビールを注ぐ。

しかし、中には人から酒を注がれるのをひたすら待つ者もいた。たいていは官僚になった奴らだ。霞が関の人となり、若いうちから関係する外部の人々にチヤホヤされ、当たり前のように接待を受けていたのかもしれない。ふんぞり返って偉そうにするあの態度。灘校時代とは雰囲気も人柄もがらりと変わってしまったように見えた。「環境とは恐ろしいものだ」とつくづく思った。

先日、ラジオを聴いていると、政治アナリストの伊藤惇夫さんが官僚の世界の話をしていた。

彼らの価値観の中では省庁の中での出世がすべてで、それに負けると自分は負け犬のように思ってしまうし、勝つためなら手段を選ばない。とりわけ内閣人事局ができてから、総理大臣に気に入られようとばかりしており、嫌われるのを非常に恐れる。(総務省の官僚は)総理大臣の息子から誘われた接待を断れば嫌われるだろうから、そんなに気乗りがしなくても接待を受けたのではないか、というような趣旨だった。

要するに首相に気に入られたいという出世至上主義がこの事件の原因で、官僚たちの贅沢な食事をしたいという私利私欲ではないという見立てである。

その後、NTTからの接待も見つかったので、この見立てがどれだけ当たっているかはわからないが、省内での出世のほうが実績を残すことより重視されているのは私には理解できる。というのは、東大医学部の卒業生も似たよう傾向の者が少なくないからだ。