デジタル庁はゼロからやり直せ
日本のシステム開発に必要なのは、ペーパーテストが得意な役人ではなく、建築界でいうところの安藤忠雄氏のような人物なのだ。先述のとおり、システムをコンセプトからスケッチして、それを実際に構築する人に伝える「見える化」ができる人間のことである。安藤氏は世界で活躍する超一流の建築家だが、ハーバード大学の教授も務めていて、英語が流暢でなくても、クレヨンを手にして模造紙にスケッチをして「こんな感じだ、わかるか?」と学生に授業すると不思議と通じる「見える化」の天才でもあるのだ。
システムをデザインする人間は、日本人でなくてもいいし、成人である必要すらない。国内のITゼネコンよりも、クラウドソーシングサービスを通じて世界中にいる10~20代の優秀な人材につくらせたほうが、はるかに使いやすくて良いシステムが安価にできるだろう。システム開発はアーキテクチャーとプログラミング言語の世界だから、日本のことや日本語を知らなくてもソフトウエアはつくれるからだ。
菅政権は21年9月にデジタル庁を発足させるそうだが、コロナ対策の失政で支持率低迷が続く中で、どこまで効果的で持続的なデジタル政策を企画・実行できるか疑問である。期待できない政府・自民党のもとでデジタル庁長官になる人物は、貧乏くじを引くことになるだろう。私が30年ほど前に著した『新・大前研一レポート』(講談社)にある「国民データベース構想」を実行すればいいだけのことなのだから、マイナンバーの誤ちを認めた菅総理と新任されるデジタル庁長官には本稿と同書を熟読し、既存のマイナポータルの改修を進めるのではなく、「国民データベース構想」の実現にゼロからあたってほしい。
(構成=結城遼大、小川 剛 写真=時事通信フォト)