「意見がぶつかっても大丈夫なチーム」をどう作るか

会社や職種、バックグランドが異なる6人が、本業の合間を縫って集まり、限られた期間内にアウトプットを出すのは、簡単なことではなかった。特に大変だったのは、スケジュール管理とコミュニケーションだ。富永さんがコモンビートのプロボノに割いた時間は平均で週5時間程度。普段はSlackなどのオンラインツールを使ってやりとりし、週1回程度、オンラインやリアルで打ち合わせを行いながら進めた。

コモンビートのスタッフとプロボノとのキックオフミーティング。右から3人目が富永さん(写真提供=サービスグラント)

ただ、時期によって波があり、支援団体への中間報告や最終報告の前は時間が必要になる。特に会社で人事の仕事が忙しくなる下半期は、プロボノも最終報告を控えた佳境と重なり、「ちょっと泣きが入った」とのこと。それでも、メンバーそれぞれがあらかじめプロジェクトの最初に繁忙期を宣言するなどの工夫をし、お互いをカバーしながら乗り越えた。

それぞれ異なる会社の文化を背負うメンバーが集まると、ミーティングの進め方一つとっても、想定しているものが違う。アジェンダをどう決めるか、資料をどう作るかについても、それぞれイメージしているものが異なるが「自分の会社の常識が、ほかの会社の常識ではないというのがよくわかりました」と富永さんは語る。

さらに富永さんらのチームでは、初顔合わせのときに、メンバーの中のプロジェクトを統括する役割の「アカウントディレクター」の発案で、互いの価値観を知るワークに時間を割いたそう。それが心理的安全性の醸成に繋がり、意見がぶつかっても大丈夫なチーム作りにつながった。「意見がぶつかり合うことをいとわず、お互いの考えを汲み取ろうとする雰囲気があったからうまくいったと思います」というのが富永さんの感想だ。

「学ぶ」だけでなく、成果を上げて感謝される

成果を出せれば支援先団体に喜んでもらえるだけでなく、その団体が取り組む社会課題の解決にも寄与することになる。さらに、支援先から評価され、感謝されるという経験は、「自分のスキルや経験が、会社の外でも通用するのだろうか」という不安を払拭してくれる。「それに普段の仕事では、あまり人に感謝されることがないので、『ありがとう』と言われるのは本当に嬉しいんですよね」と富永さんは笑顔を見せる。

最終提案では、ワークショップも実施した(写真提供=サービスグラント)

最終提案では、事業評価報告を行ったうえで、評価を基にした改善視点を出し合うための3時間にわたるワークショップを実施。将来の新プロジェクトや、参加者の継続的な参画を促す仕組み作りにつながるたくさんのアイデアが得られたという。コモンビートからは、「自分たちの考えを整え直せた」「プロボノはもう身内みたい」という感想があがった。

富永さんは、「支援先団体の生命線に関わるところでアウトプットを出さなくてはならないので大変でした。でも、資格取得やビジネススクールのようなインプット型の学びとは違った自信や満足感が得られました」と話す。

プロジェクトの後も、支援先団体のコモンビートとの関係は続いている。富永さんらプロボノチームは、新型コロナ禍のためミュージカルなどの表現活動が制限される中、活動をどう進めるべきかなどについて、相談を受けたりしたという。