たった半年で「管理職になりたい気持ち」がなえる
「すべての女性が輝く社会づくり」を推進している政府。「輝く女性」には当然「仕事で活躍する女性」も含まれているはずですが、日本生産性本部が新入社員教育プログラムの参加者を対象にアンケートをとったところ「管理職になりたい」と答えた女性社員は53.5%。男性より低いものの、半数を超える女性がなりたいと答えています。逆にそう思わないと答えた女性は46.5%でした。
ところが女性社員が入社してから「半年後」に同様の調査をしたところ「管理職になりたい」と答えた女性は27.0%に減っており、「管理職になりたくない」と答えた女性社員は73.0%に増えていたのです。この数字からは、当初は「管理職になりたい」と考えていた女性が、仕事の現場に身を置く中で心境に変化があったことがうかがえます。なぜ日本では働く女性が管理職になることを望まない傾向があるのでしょうか。海外の事情とも比べながらこの問題を考えてみたいと思います。
「家庭をもつ管理職」のロールモデルがいない問題
なぜ多くの女性が管理職になりたがらないのかという問題を考える時に、原因についていろいろと難しいことを考えがちですが、メディアでも現実の世界でも「女性の指針となるような女性のロールモデルがいないから」というのも一つの要因としてあるのではないでしょうか。
筆者は日本の映画では「おくりびと」、日本の連続ドラマだと「半沢直樹」や「白い巨塔」が好きですが、どの作品にも「仕事でトップまで登り詰めながら、幸せな家庭も築いている」女性は出てきません。「働いて上まで登り詰める人」は全員が男性であり、主役ももちろん男性です。女性はというと「かわいい妻」や「クラブのママ」「愛人」の役で登場することが多いのです。
舞台となっている「銀行員や医者の世界」は男性社会ですから、ドラマに男性が多く出てくるのは自然だといえる一方で、視聴者の中には女の子もいるでしょうから、彼女たちへの影響が心配です。BLM運動でもよく言われていることですが、映画やドラマで活躍するヒーローや主役が白人ばかりだと、黒人の子どもは自分に自信を持ちにくくなります。日本の場合、これを女性に置き換えると同じことが言えると思います。葛藤しながらも仕事に邁進し組織の上のほうへと登り詰めるのが男性ばかりなので、そういった作品を見た女児は、主人公を自分と重ね合わせて考えることがむずかしいのではないでしょうか。
欧米の作品も全体を見るとジェンダー面の偏りが見られるものの、約20年前の『アリー my Love』のように「働く女性」を前面に押し出している作品も多く見られます。
日本では、これが画面越しやスクリーン越しだけの問題ではなく、現実の世界でも「長期にわたり仕事で活躍し家庭も築いている女性」が身近にいることはそう多くありません。新入社員が職場のそんな状況を見て、何かを感じ取り、半年で「管理職になりたい気持ち」が減退してもおかしくないでしょう。
一方、ドイツだと家族や親戚など身内に「家庭を築きながら出世している女性」がいることは珍しくありませんし、テレビをつければ国のトップだって女性(メルケル首相)です。