「転勤」が女性活躍の足を引っ張っている

女性になぜ管理職になりたくないのかを聞いてみると、「やっぱり地元にいたいから」という答えが返ってくることもあります。これはとても日本的です。何が日本的かって一般職と総合職があるのも日本的ですが、出世が可能な総合職には「転勤」というものがつきもの(断ると出世コースから外されてしまうことも)なのが日本的なのです。

筆者の母国ドイツに転勤がないわけではありませんが、制度として社員の意思を確認することなく会社が社員に転勤を命令することはできません。ドイツでは女性だけでなく男性も地元を離れたくない人が多く、また家族を大事にする人も多いため、会社が一方的に転勤の命令を出すことはできないわけです。

日本の転勤のシステムは「専業主婦の妻がいること」を前提に作られたものです。昭和の時代の転勤は「そもそも転勤させる人」に「女性」は含まれておらず、あくまでも男性が対象でした。男性社員が転勤となったら、専業主婦である妻が転勤先についていき、独身の場合は転勤をきっかけに結婚するケースも多く見られました。

昭和の時代、妻がついていくことなく男性が単身赴任をする場合、それは「子どもの受験」などの理由によるものでした。

政府による女性活躍がうたわれる今も、一部の会社をのぞき日本の会社の転勤制度はなくなっていません。でも専業主婦が少なくなり、仕事を持つ既婚女性が増えた今の時代は「夫が転勤になり女性がついていこうとすると、それは女性が仕事を辞めること」につながってしまい、これではキャリアは望めません。

企業や組織でキャリアを積み出世するには日本では「転勤」の二文字がついてまわることがどうしても多いのです。そのため「ヘタに出世して自分が転勤になるのは嫌」と考える女性もいれば、「夫がいつ転勤になるか分からないから、その時に自分がついていけるために仕事は『そこそこ』にしておこう」と考える女性もいます。いずれにしても女性が仕事に対して消極的な思考になってしまう時点で、転勤制度は今の時代にそぐわないといえるでしょう。

女性活躍を考える時、「女性の気の持ちよう」にスポットを当てるだけではなく、足かせやネックになっているものをどんどんなくしていくことも大事なのではないでしょうか。

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サンドラ・ヘフェリン(Sandra Haefelin)
著述家・コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない~無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。 ホームページ「ハーフを考えよう!