なぜ日本は起業家が少ないのか。立命館アジア太平洋大学(APU)に学生起業を支援する「起業部」を立ち上げた同大学学長の出口治明氏は、「日本社会全体に旧弊な価値観や考え方が根強く残っている。そこに日本で起業家が育たない最大の問題点がある」という——。

「有名企業はやがて下り坂になる」が留学生の考え方

僕が立命館アジア太平洋大学(以下、APU)に、学生の起業やNPOの立ち上げを支援する「APU起業部」を立ち上げたのは、学長に就任した直後の2018年夏のことです。ベンチャーやNPOに関心を持つ学生の存在が「APU起業部」発足のきっかけとなりました。大学として、学生のニーズに応えたいと考えたのです。

「APU起業部」の一期生は12の国と地域出身の32組46名。二期生は11の国と地域出身の30組43名。起業を志す学生に対して、僕を含めた7人のメンターが夢を実現できるようにお手伝いをする。いまAPUが把握しているだけで、123名の卒業生が既に起業しています。

なぜ、APUに起業を志す学生が多いのか。

その答えは、いたってシンプルでAPU学生の約半数が外国人留学生だからです。歴史を振り返ってみても、多様な背景を持つ人が集まり、異なる価値観や考え方を知ることで、ケミストリーが起き、イノベーションが生まれてくる。それこそが、他大学にないダイバシティを持つAPUの強みです。

日本人学生たちは、グローバルな環境に身を置くことで、新たな気づきをえられている。

たとえば、一般的に日本人学生は、大企業や安定した会社への就職を希望するケースが多いのですが、留学生は違う。彼らは、有名企業はいまがピークで、やがて下り坂になると考えている。下り坂の会社に入社しても面白くない。だったらスタートアップ企業に入社し、会社とともに自分も成長した方がやりがいを感じ、楽しいに違いないと素直に思っている。

キャンパスには、そんな留学生がたくさんいます。加えて、APUの一回生は原則全員が寮に入るのですが、日本人学生と留学生の相部屋もあります。毎日顔を合わせる友人が、起業について学び、具体的なプランを立てている。そんな姿に刺激を受けた日本人学生たちが「自分も」という気持ちになってくるのです。