「世界をよりよくする」ことに起業の本質がある

大企業信仰に、女性差別……。実は、こうしたアンコンシャス・バイアスを乗り越えていくのが、起業家の役割なのです。

大企業に進む道をすべて否定するつもりはありませんが、既存の企業や役所につとめるだけでは社会を変えることは難しい。

そもそも起業とは、新たなものをつくり出すこと。いまの社会にないものを自分がつくってみたいという思いが原動力となり、リスクがあっても一歩を踏み出す。人間は、昔から誰かが新しいものをつくり出して、社会の枠組みを変え、世界をよりよくしてきた。そこに、起業の本質があるのです。

「APU起業部」では、株式会社もNPOも同じだと考えています。株式会社は事業利益をベースに経営しますが、NPOは利益に頼らずに社会貢献する。違いはそこだけだと考えています。株式会社にしても、NPOにしても資金調達も、優秀な人材の雇用も、広報活動も必要になってくる。

出口治明氏
写真提供=APU

最近の心理学では、何かを学んでも、本人に興味がなければ、すぐに忘れてしまうという研究成果があるそうです。

いい大学、いい会社に入るために猛勉強しても、その学問に関心がなければ記憶は定着しない。とするなら、大学は何かを教わる場ではなく、学生が新たな価値観を学び、自分が関心をもって取り組める対象を見つける場所だととらえるべきです。だからこそ、APUでは休学も否定していません。休学期間中の在籍料は半年毎に5000円。その間にさまざまな体験を通して、知見を広め、起業や、新たなチャレンジに結びつくような活動をしてほしいものです。

70歳でも80歳でも起業はできる

もちろん、やりたいことは簡単には見つけられません。僕自身も、いまだにやりたいことが分からない。大学も就職も起業もご縁に任せて、川の流れに流されてきました。流れ着いた場を面白い環境にできるように、と一所懸命にやってきただけです。

それに、すべての起業家が高い志を持っているわけではないでしょう。金を稼ぎたい、格好をつけたい。異性にモテたい……。動機はどうであれ、起業家が増えて、イノベーションが起これば、世の中の新陳代謝が高まり、社会が活気づく。

何より、いまは人生100年時代でしょう。

チャレンジする権利を持つのは、若者だけではありません。極論すれば、70歳でも80歳でも起業はできる。

世界の潮流となっているダイバーシティ・インクルージョンの原則として、個人差は、性差も、年齢差も、国籍も越えます。よく耳にする「若者らしさ」「女らしさ」「男らしさ」「日本人らしさ」などのグルーピングは無意味です。それぞれの個性を持つ人たちをグループに分けたら「らしさ」に合わない人への抑圧につながり、社会の閉塞感を強めてしまう。

高齢者だから、と新たなチャレンジを躊躇する必要はありません。何歳の人であろうと、いま、この瞬間がもっとも若い。明日になれば、1日年を取るわけですから――思い立ったが吉日です。

まずは、われわれ大人が、アンコンシャス・バイアスから自由になり、起業をはじめとする、新しいチャレンジを前向きに受け止めていく社会をつくっていく必要があるのです。

(構成=山川徹)
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