日本で起業家が育たない最大の問題点

しかし残念ながら日本では、新たな価値観と出合う場所はまだまだ少ない。加えて、日本社会全体に旧弊的な価値観や考え方が根強く残っている。そこに日本で起業家が育たない最大の問題があります。アンコンシャス・バイアス——自分自身でも気づかないうちに身についた無意識の偏見や、先入観が、起業家や社会起業家の輩出を阻んでいるのです。

その最たるものが、大企業信仰でしょう。親世代のほとんどは、いまだに高度成長時代の幻影を引きずり、子どもに対して、いい大学に入り、大企業に就職してほしいと考えている。社会がどんどん成長し、企業もそれに応じて成長し続けられるのなら、大企業信仰もいいかもしれませんが、いまは時代が違う。にもかかわらず、親世代は大企業に入れば、一生安泰だという思い込みを捨てられずにいる。

大学でも、何人が東証一部上場企業に入社したといった就職実績を掲げているでしょう。学生たちも、何の疑いもなく大企業への入社がメインストリームだと思い込んでしまっている。だから起業が、いつまで経っても傍流として扱われているわけです。そんな閉鎖的な社会では、起業を志す若者が増えるはずがありません。

日本の閉鎖性を象徴するのが、ある地方の超有名進学校の事例です。その高校から地元の難関国立大学に進学する男子生徒は50人から60人。女子生徒は60人から70人。一方で、東大か京大に進学する男子学生は10人から20人。女子学生は0人から10人。

男子学生のうち20人から30人は浪人を経て難関大学に進みますが、浪人する女子学生は一桁に過ぎません。

出口治明氏
写真提供=APU

この数字が何を示すのか。

21世紀になっても、女性は実家を離れられない。浪人もさせてもらえない。昨年の世界経済フォーラムで発表された「ジェンダーギャップ指数」で、日本は153カ国中、121位でした。この結果が日本の女性差別の現実です。

差別されている側も、その価値観に縛られている

また東大に通う女子学生が次のようなレポートを書いている。

高校時代、自分より優秀な女子生徒がいましたが、東京での一人暮らしを両親が許してくれず、東大を諦めて地元の国立大学に泣く泣く入学しました。会う都度友人は「地元の大学では勉強したい科目もないし、教わりたい教員もいない」と愚痴をこぼしている。それに対して、
「自分は一浪しましたが、東大に入れてよかった。両親には本当に感謝している」。

これが何を意味するか。女性が東大を目指して浪人することは、本来、親に感謝すべきことなのか、と。以上は瀬地山角『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社新書)という本に書かれていたことですが、彼女の言葉の背景には「女性の浪人なんてとんでもない」「女性は家に残るべき」という古い価値観がある。差別されている女性自身も、その価値観に縛られているからついつい「両親に感謝している」と言ってしまうのです。日本の女性差別の根深さを考えさせられました。