【中川】こうした国際的な枠組みをつくられてしまうと、中国はかなりしんどい。等価報復をやると言っても、北朝鮮やロシアを集めてサミットをやるわけにいかないですからね(笑)。

【渡瀬】バイデンは一応世界に通用する自由主義と民主主義を大義名分として掲げられますが、トランプはそういうことは言わない。内政と経済だけにしか関心がなくて、「香港の人権」と言われても、議会に言われたから承認しただけで、本人はまったく興味がない(笑)。そういう意味では、トランプのマインドは実に中国的です。

誰も知らない米中対立激化の真相

【渡瀬】一方で今回はかなり雰囲気が変わってきています。ワシントンD.C.でも中国人が出入りするのは結構難しくなってきていて、中国人というだけで警戒される雰囲気があります。

戦略科学者 中川コージ氏

【中川】とはいえ、昨今の米中関係を「新冷戦」と呼ぶのはどうもしっくりこないんです。中国側はアメリカを今は敵視していない。超えるべき相手だとは思っているけれど、ガチンコで戦争して負かす、なんてことは考えていない。建国100年を迎える45年までにアメリカを凌駕しよう、血を流さずに勝とうというのが中国の戦略。「戦いません、勝つまでは」が中国の一貫した方針です。

現状は「新冷戦」と言うよりも、いわば「米中新混沌」と言うべきで、その中で日本がどう生きるかが大事なのではないでしょうか。新冷戦と言うなら欧州も完全にアメリカ側について初めて成り立つものであって、今はまだ不完全で混沌としている。それなのに日本が「冷戦期のように、どっちにつくかの踏み絵を迫られている」ととらえてしまうと、間違えるんじゃないかと思います。

【渡瀬】そうですね。少なくとも「どちらか一方としか付き合えない」というような思い込みは間違いです。勘違いした識者が「米中新冷戦だ、デカップリングだ」と言っています。要はアメリカと中国が完全に分断されて、2つの経済圏ができるという見通しなんですが、アメリカの公式文書にそんなものが出てきたことは1度もないんですよ。むしろ、「デカップリングはしない」とアメリカは言い続けているんです。

アメリカがやろうとしているのは、ハイテク分野に関しては制裁をします、技術を盗むのをやめてください、強力な軍事力を持たれると困ります、人権も大事にしてください、と言いながら、「それでも通商貿易はやめません」ということなんです。デカップリングどころか、むしろ、「もっと金儲けさせろ、門戸開放しろ」と20世紀初頭と同じことを言っている(笑)。