日本と中国の関係は、これからどうなるのか。ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一さんは「経済、内政、外交の失策で習近平政権は行き詰まっている。国民の不満を逸らすために『反日運動』が利用されてきたが、日中関係はこのままではいけない」という――。(第5回)

※本稿は、大前研一『世界の潮流2024–25』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

中国・北京人民大会堂における中国の国章
写真=iStock.com/Mirko Kuzmanovic
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日本企業の「中国離れ」が急速に進んでいる

では日本は今後、中国とどうつきあっていくべきか。

中国に住む在留邦人の数は2014年をピークに減少傾向にあるが、今後は急速に減少していくと思われる。やはり「反スパイ法」の存在は現地の日本企業にとって非常に重荷であることと、EVやIT、家電、アパレルなどは中国の地場企業がかなり競争力をつけており、日本企業が現地に行ってもなかなか勝ち目がない。

ただ、中国以外に日本企業が海外進出できるような国があまり存在しないのも事実だ。なにしろ人口の半分が寝ていて働かなかったとしても、なお6億人という巨大な労働力を擁している国は、世界を見回しても他に存在しないのだ。

ベトナムは中国の広東省より就業人口が少ないし、ユニクロがバングラデシュで生産を行っているものの、インフラが整備されていないため、納期がゆったりしている商材はともかく、ジャストインタイムが求められる商材の生産は中国以外では不可能だろう。

中国は全体主義国家なので、共産党の鶴の一声であっという間にインフラを整備することができる。改革開放の初期は、香港から上海にトラックで化粧品を送るのに9日かかったが、現在ではわずか1日で行って帰ってこられるという状況だ。中国のインフラはバングラデシュやインドネシアとは大違いなのだ。

したがって、中国に代わる国はないと言えるのだが、今後はこれまでのようにはいかないだろう。

依然として“反日運動が起こるリスク”がある

中国政府は、国民の不満をそらすために、対外的に突如として強硬姿勢になることがある(図表1)。とくにアメリカに追従外交をしている日本をターゲットにして叩くことは常套手段だ。実際、過去3回起こっている(図表1)。

まず、2005年5月、当時首相だった小泉純一郎氏が靖国神社に参拝すると、中国全土の主要都市で反日デモが起こり、一部は暴徒化した。

次に、2012年9月、当時の民主党政権が尖閣諸島を国有化したときである。このときは中国各地で反日デモが起こっただけでなく、日系のデパートやスーパー、工場、日本料理店などが襲撃された。

さらに、2023年8月、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出問題では、日本産の水産物の輸入禁止で300億円ほどの損失が出た。

このように、中国では突如として政府主導の反日運動が湧き起こるというリスクがある。福島の問題は徐々に反日のトーンが弱まり、SNSのトラッキングが下がったが、中国には依然としてこのような問題があるということだ。

大手製薬会社の幹部が逮捕されたときも、「中国は法治国家なので、法に基づいて粛々と」と毛寧報道官は述べていたが、実態は法治国家とはとても言えない状態である。