※本稿は、大前研一『世界の潮流2024–25』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
日本が「G7」や「先進国」と言えないワケ
現在の日本はもはや、「G7」や「先進国」と呼んでいいのか、微妙な立ち位置である。
2023年はそれがはっきりした年だった。一人当たりGDPは韓国や台湾と同水準であるし、国債の格付けも先進国では最低のA+(プラス)で中国やサウジアラビアよりも下である。図表1に凋落する日本が掲げる問題をまとめてみた。
根幹にある問題は人口減少だが、企業のガバナンスや人材の質も大きく影響している。さらに経済問題、2023年12月になって噴き出した政治問題、それからAI時代の教育問題がある。
高校二年生の段階で「文系か、理系か」を選択させているのは、世界では日本だけだ。しかも3分の2の高校生が文系に進むという。理由は受験が楽だからだ。
工業化社会をつくることに一生懸命だった日本の文部科学省は自身の間違いに気づいていない。そして21世紀半ばに役に立たないと思われる教科をいまだに一生懸命教えている。日本の衰退を加速しているのは間違いなく文科省だ。今の教育では、21世紀の競争力のある人間をつくることは不可能だろう。
AIが普及する「第四の波」に移行するにあたって、日本は人材育成がまったくできていない。世界で活躍できる人材を輩出していないのだ。
「海外から高度人材を呼び込みたい」と政府は言っているが、日本人が世界で活躍できるようになって、初めて海外からそのような人材が日本にやって来て活躍できるのだ。そうした因果関係が政府にはわかっていない。
日本が出遅れた生成AIの利活用
2022年11月、オープンAIが生成AI「ChatGPT」を発表した。それにより世界的な生成AIブームが巻き起こり、後にアメリカのマイクロソフトが出資、提携している。
それから1年が経ち、世界はガラッと変わった。グーグルやメタ、アマゾンなど、アメリカの大手テック企業による生成AIの開発や活用の動きが活発化している(図表2)。
グーグルは対話型AI「Bard」を展開し、自社のネット検索サービスにも生成AIを活用している。またメタ(旧フェイスブック)は、大規模言語モデル「Llama2(ラマ2)」をオープンソースで公開し、マイクロソフトとも連携している。
さらにアマゾンは、自社のクラウドコンピューティングサービス「AWS」を通じて生成AIのサービスを提供し、スマートスピーカーにも生成AIを搭載した。テスラCEOのイーロン・マスク氏が新たに設立したx AI(エックス・エーアイ)社には、グーグルやオープンAIの元技術者らが集い、テスラとも連携している。
このように、2023年はまさに「生成AI元年」と呼べるほどの大きなムーブメントになった。しかし、生成AIの利用状況において、アメリカでは92%が生成AIを使い始めているとの統計もあるが、日本は54%と大きく出遅れている(図表2)。
使い方にも違いがあり、アメリカではすでに9割の企業が「ドキュメント作成自動化」「研究開発」「AI用学習データ生成」などの分野で積極的に使っているが、日本企業は5割から6割台に留まっている。