イランとはどんな国なのか。『イランの地下世界』(角川新書)を書いた若宮總さんは「イスラム教の独裁国家というイメージが強いが、実際は全く異なる。イランの人たちは政府を嫌い、イスラム教に嫌気が差している」という――。(聞き手・構成=ジャーナリスト・末並俊司)
2024年4月16日、イラン・テヘランで、イラン最高指導者ハメネイ師(上左)とイラン最高指導者故ルーホッラー・ホメイニー師(上右)の壁画の前を歩くイラン人たち
写真=EPA/時事通信フォト
2024年4月16日、イラン・テヘランで、イラン最高指導者ハメネイ師(上左)とイラン最高指導者故ルーホッラー・ホメイニー師(上右)の壁画の前を歩くイラン人たち

イラン人の最大の敵は「イラン体制」

──今年4月、イランとイスラエルが初めて直接的な軍事衝突をしました。しかし、イランの人たち、特に若者はイスラエルのパレスチナ侵攻を支持していると著書に書かれていました。それはなぜでしょうか。

今のイラン人、特に若者にとっての最大の敵はイラン・イスラム共和国です。打倒すべき最大の敵が自国の体制なんです。だから、敵の友であるパレスチナが敵になる。ロシア、中国も敵となります。レバノンやイラクの、シーア派、フーシ派、ヒズボラも全部敵です。彼らはそういう思考回路なのです。

一方、敵の敵であるイスラエルが友になります。実際にパレスチナで何が行われているか、どんな悲惨な虐殺が行われているかは、割とイラン人の関心が低い。見て見ぬふりをしている。

今年1月、シリアのイラン大使館が攻撃され、革命防衛隊の司令官らが死亡しました。イランはその報復として、4月にイスラエルを攻撃しました。その数日後に、イスラエルからイランへの反撃があった。そのときにイランの人々から「もっとやれ」という声があがりました。もっとわが国家を攻撃してくれと。

これが、若い人たちの本音なのだと思います。もちろん自宅が攻撃されるのは困りますが、最高指導者の家をピンポイントでやってくれ、という人が結構いました。日本に当てはめると、首相官邸にミサイルを撃ち込んでくれと言っているようなものです。