「あなたの国はいい国ですね」と言わないほうがいい
「とにかくイランという国の酷さを知ってほしい」。最近、そんなイランの人たちの気持ちがわかるようになってきました。日本では自民党の裏金問題が噴出していますが、なぜか海外のメディアではほとんど取り上げられていません。そればかりか、日本政府がかなり美化されて報道されることもある。
──国民が自国の政権を嫌うという点では、日本とイランには共通点がありますね。
そうです。今イランでは王政復古の動きも起きています。これはある意味では、イランを再びイラン人の手に取り戻そうという運動でもあるわけです。
イスラム体制を終わらせること。これがイラン人ほぼ全員の一致した考えではないでしょうか。問題はそれをどうやって終わらせるかです。2022年に起きたデモのような方法では、政府から弾圧されるだけだった。
大規模なデモが起きても、どこの国も手を差し伸べてくれなかった。イラン人には、欧米先進国に裏切られたという気持ちがあることも事実です。
イスラム国家は限界を迎えている
外国が助けてくれないと体制を終わらせられないと明らかになった今、海外からいかに応援してもらうかが重要です。
それを誰がやってくれるのか。私は、パーレビ(パフラヴィー)国王の息子、レザー・パフラヴィーの役割が非常に大きいと思いますが、彼らが国際世論を味方につけることができれば、状況は大きく変わる可能性があります。
──イランの人々にとって、どんな選択肢がいちばん幸せなのでしょうか。
そこが問題で、イランの友人たちに聞いても意見が別れています。
本書の中でもいくつかの可能性を検討していますが、高学歴で、かなり冷静に政治や社会を分析しているような人たちは、革命や大きな政変よりも、体制の枠組みを残したままでの民主化、イスラム共和国の「換骨奪胎」を支持している印象を受けています。
――5月にライシ前大統領が事故死したことを受けて行われた先日の大統領選挙では、改革派のペゼシュキアン氏が新しい大統領に選ばれましたね。
基本的に大半のイラン人はこの国の政治にもはや何の期待もしていません。本書でも書いた通り「イラン・イスラム共和国はオワコン」ですからね。
ライシの死が報じられたときも悲嘆に暮れている国民などごくわずかで、多くは人知れずガッツポーズをしていたか、SNSなどで事故を皮肉ったジョークなどを見ながら笑っていた。
大統領選挙も全体として盛り上がりに欠けていました。なぜなら、大統領をいくら代えたところで最高指導者ハメネイやその取り巻き、そして革命防衛隊がいる限りイランは変わらないというのが、今や国民の共通認識だからです。
改革派の大統領が誕生した意味
それどころか、反体制的な人々は今回、投票のボイコットを呼びかけました。この背景にはレザー・パフラヴィーや2022年の反体制デモの犠牲者遺族がボイコットを強く求めていたことがあります。
その結果、投票率は今回も前回同様、50%に届かなかったわけですが、一方で意外な動きもありました。
当初最有力と見られていた保守強硬派のガリバフが一回目の投票で沈み、唯一の改革派候補ペゼシュキアンが首位に躍り出たのです。
それまで国民の多くは、ペゼシュキアンは選挙を見世物にするために送り込まれた、ピエロ的な存在と思っていたわけです。どうせ票を集めるのはハメネイに近い保守派の候補に違いない、こんな子供騙しに乗せられてたまるかと。
ところが、そのピエロが予想外の健闘を見せて2位のジャリリ(保守強硬派)を僅差で破り、決選投票に持ち込んだ。
これを見て、変革をあきらめていた人たちの心が揺らぎはじめます。