イランとはどんな国なのか。『イランの地下世界』(角川新書)を書いた若宮總さんは「敬虔なイスラム教の国というイメージが強いが、実際は全然違う。特に若い世代の人たちの間では『イスラム離れ』『イスラム疲れ』が進んでいる」という――。(聞き手・構成=ジャーナリスト・末並俊司)
イランの首都テヘランの街中を歩く女性
写真=EPA/時事通信フォト
イランの首都テヘランの街中を歩く女性。スカーフを着用する人も着用しない人もいる

スカーフの着用ルールはどんどん緩くなった

──イランの女性たちは、スカーフとベールの着用が強制されています。この違いは何でしょうか。

ベールは頭だけじゃなくて、頭髪を含めて基本的には顔と手以外の体全体を覆う布です。ベールの中にスカーフも含まれます。スカーフの中にも何種類かあるのですが、体の線を覆うものがベールで、頭部に限定した場合はスカーフとなっています。

ベールのなかにはマントといって、ゆったりとした外套(がいとう)のような服もあります。またチャドルという、頭から全身を真っ黒な1枚の布で覆うものもあります。

──このスカーフやベールを着用しない女性が増えていると伺いました。なぜでしょうか。

イラン革命(1979年)があった40数年前から、少しずついい加減になっています。21世紀はじめの改革派・ハータミ政権(1997年8月~2005年8月)では規制が緩くなり、強硬派と言われたアフマディネジャド政権(2005年8月~2013年8月)期には一時的に厳しくなった。こうしたことを繰り返しながら、全体としては「適当になっている」のが現実です。

初めは頭髪ではなく、体を隠すことから緩くなりました。かつてはマントなどでしっかり体全体を隠す服がたくさん売っていたし、着てる人も多かった。現在では、例えばちょっとオーバーサイズのトレーナーなどでもOKになっています。

トラブルを避けるために髪に引っ掛ける

──つまりタイトではなければ許される、ということでしょうか。

タイトというか、腰が隠れてればいいということです。実際、タイトな服を着ている人もいます。つまり、くびれやおしりのセクシーなラインが見えなければいいのですね。

ボディコンほどではないけれど、スプリングコートのように、腰のところがギュッと締まったような服もある。だから女性の服は、少なくとも私が知っている20年近く前のイランと今を比べるだけでも、かなり規制が緩くなっています。

一方、頭部を覆うスカーフに関しては、結構厳しい。スカーフを完全に取ることは、抵抗感が強かったようです。ところが、ここも少しずつ緩くなって形骸化しています。

例えば前髪を見せている人は普通です。髪どころか、髪の毛をアップにして、うしろでお団子みたいなのを作って、そこに布をちょっと引っかけるというスタイルもかつては多かった。ほとんど何も隠していないんですけど、完全にスカーフを取ることはできないという状況が、ここ15年?20年ぐらい続いていたのです。

それでも、街を歩いていると、時々注意されることがあった。これは政府の風紀警察や年配の人、敬虔なムスリムといった保守的な人が、服装の乱れをあげつらうんですね。女性たちはトラブルを避けるためにも、一応スカーフをひっかけておいたわけです。