「へジャブ女性」は敬虔なイスラム教徒なのか
人前では信心深い女性を演じるけど、実際はそれを出世の道具にしたり、金儲けの武器にしたりする「へジャブ女性」が大勢いるのが実態です。イラン人は誰でも、1度や2度はそういう人たちに騙されたり、お金や立場をむしり取られたりする経験をしています。
──ヘジャブ女性は人々から嫌われる存在なのでしょうか。
イランの人々は、怒りと恐怖と警戒心を持ってヘジャブ女性に接しています。普段は警戒心、恨みのような感情を内に秘めているだけですが、例えば2022年のデモのようなきっかけがあると、ものすごい怒りとして噴出させます。「この機に仕返ししてやろう」という感じになる。その怒りはすごくよくわかります。
──2022年のデモ以降、ヘジャブ女性に対する認識に変化はあったのでしょうか。
デモの直後、ヘジャブ女性たちは結構おとなしくしていました。デモはすごいエネルギーだったものですから、彼女たちも警戒していました。けれども、ほとぼりが冷め始め、今はまた少し揺り戻しが来ています。この1年ぐらいですね。今年4月、イランとイスラエルの軍事衝突が起きましたが、この出来事と関連性があると考えています。イラン国内を準戦時体制として引き締める意味もあるのでしょう。
風紀警察もまた勢力を盛り返しています。スカーフを着用していない女性を暴行したり、無理やりワゴン車の中に押し込んだりする映像が出回り始めていますね。注視が必要です。
イスラム教を笠に着ているだけ
──ヘジャブ女性の存在感が再び高まっているということでしょうか。
そういうことです。風紀警察だけではなく、イスラム教を都合よく利用しようという人たち、括弧付きの保守派が、巻き返しに出ているという印象です。
――スカーフを燃やす抗議活動が行われることもあります。なぜスカーフが注目されるのでしょうか。
これはイスラム教の教えを笠に着た人たちへの反発という意味もありますが、実力主義を願う人々の思いが込められていたのだと思います。イランという国はコネ社会です。スカーフはその道具に使われているわけです。
「実力社会」という言葉はイランにはありませんが、今の若い人たちはそれを求めています。大学で学問を修めたら、卒業後はそれを活かせる仕事に就きたいわけです。ところが、多くの若い人たちはそういう仕事がなかなか見つけられません。
自分の能力と経験を活かしたいと思っている人がたくさんいます。しかし、それを活かせない。なぜか。能力も才能も何もないけども、ただコネだけはあるという人が、社会の隅々に入り込んでいるからです。
スカーフを燃やして抗議する女性たちの真意
役所もそうです。公務員も基本的にコネ社会なので、とにかく、私から見ても仕事ができない人がたくさんいる。ところが、そういう人たちはコネを使ってどんどん出世します。組織の上層部は「能力はないけどコネがある」人だらけです。これでは経済も含め、社会全体が正常に回っていきません。
コネ社会から実力社会へ変えよう――。こうした思いがイランの人々には根強くあり、ヘジャブ女性は典型的な仮想敵として許せない存在になっているのです。女性がスカーフを着用しないという行為は、被ると暑い・面倒くさいということではなく、もっと社会の根源に対するメッセージなんです。