「嫉妬深さにカルチャーショックを受けた」

──若宮さんはなぜイランを好きになったのでしょうか。

なんだろう……イジりたいんでしょうね。イラン人とイラン社会をイジりたい。大阪人が大阪を馬鹿にしているけど大阪が大好き、という感情と似ているかもしれません。愛憎半々ということだと思います。

でも最初は違ったんですよ。最初は本当に惚れ込んでいました。けれども、そうした幻想は必ずいつか砕かれる。砕かれたにもかかわらず、私は今でもイランが大好きなんです。

彼らの嫉妬深さにはカルチャーショックを受けました。今回の著書で、イラン人の国民性、様々な気質について書きましたが、彼らを理解するうえで一番大事なのは嫉妬心だと思っています。これまでイラン人のホスピタリティや優しさに着目した書籍はありましたが、嫉妬心を取り上げたものは少なかったと思います。

ホスピタリティや優しさは、イラン人の「表の顔」なんです。建前です。彼らも人間ですから、その裏にはでものすごくドロドロの人間劇もあるわけです。

でも、イラン社会自体が変わってくれば、それに伴ってもしかしたら、イラン人の嫉妬深さも変わるのかなと思っています。

結局、さきほども申し上げた通り、イランはものすごい競争社会であり、コネ社会なんです。この社会からあぶれた者たちが、救済されない社会。これが社会の上から下まで浸透している。社会の末端の末端まで、コネと過剰な競争がはびこっているんです。

当然学校とか家族、親戚の間でも対抗心、嫉妬が渦巻いてる。小さな職場でもそうです。それがずっとピラミッド状になっているのがイラン社会なんです。

「敬虔なイスラム教徒」はウソ

──著書で、イランは「世界で最も厳格なイスラム国家でありながら、その国民はイスラム圏の中で最も世俗的である」と指摘しています。このような、国民の実態と乖離した体制の在り方も、本書で指摘されているイラン人特有の「見栄」と関係があるのでしょうか。

一部関係していると思います。イラン政府、イスラム体制というのは、とにかく自分たちが敬虔なイスラム国家であることを世界中に喧伝したいわけです。これを人に置き換えれば、イランの人たちの見栄そのものですよね。建前やリア充アピールを政府もやっているんです。国家として「自分たちすごいだろう。イスラムなんだぜ」と。

若宮總『イランの地下世界』(角川新書)
若宮總『イランの地下世界』(角川新書)

本当は違うのに、敬虔でない国民の存在はひた隠しにし、反米デモを行っている人たちや、コワモテの革命防衛隊、金曜礼拝に集まるチャドルを纏った女性の映像ばかりを報道させる。これは要するに「外づらのいいイラン人」とやってることがそっくりなんですよ。このことに外国人は気づいていませんが、イラン人ならだれもが自覚しています。

イラン・イスラム革命が起きた40~50年前は、本当に敬虔なイスラム教徒がたくさんいました。だから、イスラム体制は今ほど表面的なものではなかったと思っています。しかし、当時から他のイスラム諸国と比べてもイラン社会はものすごく世俗化が進んでいました。

「イスラム離れ」「イスラム疲れ」が進んでいる

ところが、そんな国で革命が起きた。本当に敬虔な気持ちで革命に参加した人もいたのですが、多くは革命を取り巻くエネルギー、集団熱狂に乗せられてしまった。

普段から礼拝をしていたわけではないし、断食などにも興味がなかった人たちも、そのエネルギーに乗せられ、気づいたら革命が起こり、イスラム共和国が出来上がったというのが真実に近いと思います。

革命から半世紀近くが経過しましたが、本書でも書いたように、今ではほとんどのイラン人はイスラムから距離を置きつつあって、「イスラム疲れ」を起こしてしまっていると思います。

実際に国の上層部にいる人たちも、ほとんど実体を伴っていないことはわかっているんだけれども、何しろ建前が大事なので仕方なくイスラム共和国を続けているのではないでしょうか。

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