なぜ鼻を低くしたがるのか
──『イランの地下社会』には、鼻を低くする手術がよく行われていると書かれていました。
鼻を高くしようとする日本人とは違うところですね。
イラン人の鼻は大きく前にせり出している場合が多い。日本人からみればうらやましいくらいですが、イラン人はこうした立派な鼻をコンプレックスに感じています。
そのため、鼻全体を低く削り、鼻先を上向きにやや反らせるような手術を施します。要するにヨーロッパ人のような鼻に近づけるということでしょう。
整形の手術のすぐ後は手術痕が残りますね。しばらくするとこれが消えてきれいになる。このいわゆるダウンタイムを、日本人は恥ずかしがります。
だけどイラン人は見栄っ張りですから、整形ができるくらい裕福であるという意味で、手術跡が落ち着くまでの包帯の状態をむしろ誇る傾向があります。そのままでどこにでも出ていく。
宗教ではなく、麻薬にすがる若者が急増
──アヘンなどの薬物も流行っているとのことですが、これも見栄の一部?
いいえ。薬物汚染は、社会的、経済的な矛盾が背景にあると私は思ってます。その矛盾とは、コネ社会であることも大きいですが、もっと大きな規模で俯瞰してみる必要がある。
イラン社会には、様々な矛盾があります。対立といってもいいと思うんです。まずは宗教と世俗の対立がある。もう一つは伝統と近代の対立。その中には男尊女卑の文化、親子間の世代対立なども含まれています。こうした様々な対立、矛盾の中で若者たちが特に苦しんでいるんです。
家の中でも親の権力がとても強い。親が子供の結婚相手や進学先、就職先などを全部決めたりするわけです。一人暮らしも許してもらえない。そういう息苦しさがあります。家の外に視点を移しても、就職できない、就職しても不安定、コネがない……。そのような苦しみがあり、さらに風紀警察などの絞め付けもある。
ですから若者たちは常に何かに抑圧されているわけです。そのはけ口として、薬物の氾濫があると見ています。ひとときの楽しみ、ある種の現実逃避の道具になってしまっています。
加えて、手に入りやすいということもあるでしょうね。特にマリファナは、高価な覚せい剤・アヘンと比べて安価で入手することができます。
お酒も結構手に入ります。要するにアメリカの禁酒法時代のように、お酒を禁止する一方で、政府はマリファナで儲けているんじゃないかと考える人もいます。なぜなら、国境を越えて入ってくるということは、政府が税関などでお目こぼししているということですからね。