イスラエルへの攻撃は国家のメンツのため

──イランとイスラエルの武力衝突を、イランの人たちはどう見ているのでしょうか。

力の見せあい、武力の誇示、競争に過ぎないと思っています。要するに本気でドンパチやって殺し合うつもりはない。茶番として見ています。政府が「これだけの力があるんだぞ」と示すことが目的であり、それ以上の意味はなかったと考えているのです。

実際にイランのイスラム政府は攻撃の72時間前にイスラエル、アメリカ、周辺国に通知しています。「報復攻撃をするから、ちゃんと迎撃してくれよ」「迎撃してくれないと被害が大きく出て困るから」というメッセージです。

──なぜイラン人はかくも理性的なのでしょうか。情報リテラシーが高い理由を教えてください。

若宮氏
若宮氏(撮影=プレジデントオンライン編集部)
 

欧米メディアの影響を受けているからだと思います。しかし、決して西洋にも洗脳されてない。そこが彼らのすごいところです。

そもそもイランの国営放送が、ものすごくつまらない。あんなもの誰も見ていないんです。公共の場では国営放送が映るようになっていますが、自宅で見る人はほとんどいません。自宅に帰ると衛星放送でBBC(イギリス)。などの欧米メディアのペルシア語放送を見ているイラン人が大半です。

最近、財政難を理由にテレビ放送から撤退してしまったマノトなどは反イスラム共和国どころか、王政復古、パフラヴィー朝礼賛の論陣を張る急先鋒でした。そういうものをイラン人は見ている。

日本のマスコミはプロパガンダにだまされている

このように衛星放送で、多様な海外メディアに接しているので、彼らはリテラシーが高いのだと思います。SNSもたくさん見ている。特にインスタグラムは若者から高齢者に至るまで使っています。インスタは日本だと若者文化のイメージですが、イランでは老若男女を問わず人気があるんです。

イランの国旗に向かって歩く人たち
写真=iStock.com/christophe_cerisier
※写真はイメージです

──日本では、イランで戦争ムードが高まっているとの報道をよく目にしました。

いや、そんなの嘘です。日本のメディアは、イスラム共和国が言ってほしいことを報じているだけです。

いわゆる示威行動(デモ)はありますが、サクラとして政府に動員される人も多くいる。バスに乗って何千、何万人という規模でテヘランに集まり、目抜き通りでデモをやれば、あたかも全国民が賛同しているように見えるわけです。そういう映像を作って、垂れ流している。つまりプロパガンダです。

基本的に日本のメディアはイラン国内で自由な取材ができません。記者が取材する際には政府から派遣されるイラン人が必ず通訳兼監視役として付くそうです。彼らの意に反する取材や報道をしてしまうとイランで活動できなくなるリスクがあるので、イラン側のスタンスを鵜?みにするわけですね。

しかし先日のNHKのニュースでは「やっぱり戦争はしてほしくない」というイラン人の声を拾っていました。なかなかNHKもちゃんとやっているな、と思いました。