バイデンは可もなく不可もなく

【渡瀬】米大統領選はつまるところ、「どちらが嫌われているか競争」。トランプの嫌われ方からすると、バイデンは可もなく不可もなくという評価です。

しかも若干、ボケの入ってきているバイデンに対し、彼の陣営はコロナ禍の影響を理由にバンカー戦略、つまり外に出さないで家から発信させる方針をとっています。これによって、バイデンの失言が少なくて済んでいる。

一方トランプは出ずっぱりですから、話せば話すほどバイデンが票を稼いでいる(笑)。ただしトランプも民主党支持層を動かして、ミネソタ州の民主党市長6人がトランプ支持を表明しました。これによりトランプが一気に巻き返す可能性が出てきています。

【中川】対中政策に関しては、「バイデンになると対中対決姿勢が弱まる」という指摘もあります。

パシフィック・アライアンス総研所長 渡瀬裕哉氏
パシフィック・アライアンス総研所長 渡瀬裕哉氏

【渡瀬】基本的にはアメリカ政府の方針は米軍の対中抑止政策に表れています。その原則はどちらが政権をとっても変わりません。米軍の対中方針は、中国の軍事拡張を抑止しつつ、米国の経済力を高めて米軍の強化に転嫁し、ハイテク分野でも中国の追随を許さないよう、徹底的に制裁して、というものであり、誰が大統領になっても変わらない。その軍を動かすために民意が必要だというだけのことです。

ただし、やり方は違っていて、共和党は軍事費も増やして自前でやるので、外交でも表立って中国と対立する真っ向勝負。特にトランプはそういう手法をとっています。一方、民主党は軍事費を減らす傾向にあり、自由民主主義の尊重、などとかっこいいことは言うけれど、対応能力がない。だから人権問題を盾にするなどして水面下で仕掛けるしかない。

【中川】表立ってわかりやすく中国を叩いてくれるトランプは、中国にとっては相手にしやすい。中国は「等価報復の原則」を貫いています。これは、相手が何かやってきたら、同等のことをやり返すということ。アメリカ国内で中国人をスパイ容疑で1人拘束すれば、中国も1人拘束する。同じようにやり返せばいいだけですし、真っ向勝負で来てくれれば、やり返したことを国民にも伝えやすい。それを民主党のように水面下でじわじわやられると、中国としては煩わしいですね。

【渡瀬】バイデンが発表している対中政策方針には「就任1年目に民主主義国だけを集めたサミットを開催する」と書かれています。要するに中国やロシアを呼びたくない。民主党は共和党以上にロシアが嫌いですから。さらには民主主義を促進するための市民団体なども参加させると言っていますから、香港も入る。