満足度が上がる→客が増える→コストが安くなる
【井野川】まず、お客さまが商品を買いたいと思ったとき、商品(品揃え)が揃っているということがすごく重要です。しかし、直販だけでは品揃えに限界がありますよね。後にマーケットプレイスビジネスが始まり、販売事業者さまに商品を販売いただくことで品揃えがさらに豊富になります。
とはいえ、なかなか取り扱いが難しい商品もあります。例えば出前サービスや劇団のチケット、旅行商品などです。Amazonはそれらをお客さまが買うときも、簡単・快適・安心な購買体験を提供したいと考え、このAmazon Payのビジネスを始めました。それによって欲しい物が、簡単快適にAmazonアカウントを使って買えるようになり、お客さまの満足度が上がります。
【田中】カスタマーエクスペリエンスが上がるということですよね。
【井野川】満足度が上がれば「ここで買いやすいからまた来よう」となり、トラフィックが上がります。トラフィックが上がると「私たちもビジネスがしたい」と販売事業者さまも増えていきます。そうすると規模がだんだん大きくなり、規模の経済的な部分でコストが安くなります。コストが安くなったぶん価格を下げる。グルグル回っていく形ですね。
「昔も今も10年後も変わらないことが3つある」
【田中】ベゾスCEOの動画を長年拝見していますが、彼は重要なことや信条のようなものは繰り返し同じことを言い続けている。例えば、彼は、Amazonが10年後どうなるかと聞かれても、「それは自分でもわからない。ただ、昔も今も10年後も変わらないことが3つある」と言っています。「品揃え」「価格」「利便性」(※)をお客さまが求め続けるということです。これはずっと言い続けていることですね。実際、顧客が求める水準や尖鋭度は高まっていて、それらに先行して、ということだと思いますが、その3つへのこだわりは、今の事業の中でも強くお持ちですか。
※筆者註:Amazon社ではお客様満足(Customer Experience)を高める3つの柱として、以下の英語・日本語表現が使用されている。
1)Selection(品揃え)
2)Price(価格)
3)Convenience(利便性):ここに迅速な配送が含まれ、サイト上での買いやすさなど、あらゆる観点での利便性が含まれる。
【井野川】私が過去に携わったフルフィルメントby Amazon(FBA)も、事業者さまの商品を早くお客さまにお届けするというサービスですからね。
【田中】シアトル本社のすぐ近くにAmazon Goがありますが、あれも一つのpaymentシステムですよね。実際に体験して、カスタマーエクスペリエンス自体の定義が進化したなと思いました。ただ立ち去るだけで決済が終わっていて、買い物をしていることすら感じさせないし、支払いしていることすら感じさせない。カスタマーエクスペリエンスの定義が、取引をしていることすら感じさせないくらい自然で、スピーディー、というところまで進化したなと思いました。
【井野川】私自身もシアトルに行ったときはAmazon Goを使うのですが、レジに並ばなくてよく、スピーディーにお買い物ができるので非常に気に入っています。
Amazon Payで言うと、お客さまにとっていろんなサイトでお買い物をすると、サイトごとにパスワードやIDを求められて非常に面倒です。新しく登録する場合も、支払い方法の画面でクレジットカードの情報を入力しなければいけません。最近はPCよりスマホを使い、電車に乗っているときや、レストランで行列に並んでいるときなどちょっとした隙間時間を利用してお買い物をするお客さまが多いです。そんなときにポケットからクレジットカードを出して、スマホに打つことはできません。われわれのサービスを使っていただくことで、買いたいと思った瞬間に買えるようになり、不便を解消できると良いなと思っています。