なぜ新型コロナウイルスのワクチンは「1年以内」という超短期で開発できたのか。慶応義塾大学医学部の宮田裕章教授は「デジタルトランスフォーメーション(DX)により、開発工程のデータを共有できたからだ。DXで医療は大きく進歩している」という——。

※本稿は、尾原和啓・宮田裕章・山口周『DX進化論』(MdN)の一部を再編集したものです。

注射器を持っている手元
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ウイルスの遺伝子情報を全世界で共有できるようになった

【尾原】日本では、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が繰り返し出されましたね。

【宮田】2021年の初頭からアルファ株が欧州を中心に猛威をふるいましたが、その後登場したデルタ株はそれ以上の感染力で、世界中で感染拡大を引き起こしました。もともと私は、「変異株」そのものに対して警戒を呼びかけていたのですが、想定の中でも厳しい方に入ったという印象です。

ただワクチンの状況としては、mRNAワクチンが非常に早いスピードで実用化され、きわめて高い効果を示すなど、ポジティブな側面も忘れてはいけません。今後ワクチンの効果が低い更なる変異株も登場する可能性もありますが、ウイルスの遺伝子情報をリアルタイムに全世界で共有して、迅速な対策を行うためのデータベース(GISAID)などが有効に活用され対応が行われています。データを共有するという人類の連携の中に光明がありそうです。

データ共有により奇跡的なスピードでワクチン開発ができた

【尾原】おっしゃる通り、やはり絶望の中にこそ希望は見えてくるのだと思います。以前、イスラエルの投資家の方々と話していたのですが、他国に先がけイスラエルでは2回目の接種まで迅速に実施された結果、コロナの感染者が劇的に下がり、いち早く生活規制がほぼなくなりました。アメリカ、イギリスもそれに続いています。

感染者数の低下といった数字的な部分だけでなく、宮田先生がおっしゃるような「共鳴する未来」の中で、つらい状況だからこそお互いに学ぶ行為が連鎖し、変化の大きい時代をコントロールするという状況がいろいろな場面で出てきているのでしょうか。

【宮田】実際、ワクチン開発は奇跡的なスピードで進みました。通常であれば3〜4年かかるところ、開発工程のデータを共有することにより各国でワクチンを作れるようになったので、開発期間が1年以内に縮まったわけです。

ワクチンが効きにくいタイプの変異株も出てきているという意味では、ワクチンを打ち終わったところで変異株の侵入を許してしまうと、また1からということになり、対応が難しいのは事実です。一方でワクチン開発側も「GISAID」を活用して、新しい変異株への有効性の検証や新規ワクチンの開発を継続的に行っています。