世界を代表するテック企業がヘルスケア関連の事業を展開
ひとりひとりがデータ活用の効果を実感することができる分野の1つがヘルスケアです。体調や症状が悪化してから病院に行って治療するのではなく、病気になる前の「未病」の段階からケアできる可能性が、データ活用にはあると思います。ライフログSNSの活用により、日々の生活を自分らしい生き方で支えながら健康を実現することができるようになっていくでしょう。
アップル最高経営責任者(CEO)のティム・クックは、2019年初頭から「未来の人たちがアップルを思い出したとき、人々に健康をもたらした企業だと言われたい」という趣旨の言葉を述べています。翌年には米グーグルが生命保険分野に進出するなど、世界を代表するテック企業がヘルスケア関連の事業展開を示唆しています。
トヨタ自動車も同様で、ヘルスケアを含むデータビジネスを進めています。中でもスマートシティ構想は、医療から暮らしの安全まで、データを活用した総合的なヘルスケア事業への足がかりになるかもしれません。
ただ一方で、新型コロナウイルスの影響は「いかに経済と命のバランスをとるか」や「弱いところにしわ寄せがいく」という現代社会の構造的課題を浮き彫りにしました。事実、アメリカにおける新型コロナウイルスによる感染率・死亡率は、「コケージャン」よりも「アフリカン・アメリカン」のほうが高いことがわかっています。
「最大“多様”の最大幸福」の時代へ
また、アフリカン・アメリカンに対する暴力や差別をなくそうとする運動「ブラック・ライブズ・マター」が世界的なムーブメントに発展したように、多様な民意を社会が受け止められていない現実も明らかになっています。
新型コロナウイルスの世界的な蔓延やワクチン問題は、そうした分断が「対岸の火事」ではないことを、私たちに自覚させました。そこから、既存の資本主義が転換期を迎えており、従来の構造とは異なる新たな社会システムが必要という、示唆を受け取ることができます。
私はその新たな社会システムを、データの利活用によって多元的な価値への対応を可能にする「データ共鳴社会」と表現しています。誰ひとり取り残さず、ひとりひとりに寄り添いながら、まさに「個別化」や「包摂」を実現する社会のあり方です。
そのことについて、日本のデジタル庁創設に向けた方針を検討するワーキンググループでは、「The Greatest Happiness of The Greatest Number 最大多数の最大幸福からThe Greatest Happiness of The Greatest Diversity 最大“多様”の最大幸福へ」と提案しています。
日本にはマスクや給付金、ワクチンに至るまで、新型コロナウイルスが突きつけたデジタル化の課題が山積しています。DXという言葉は主にビジネスの文脈で普及しつつあるものの、その本質である「体験価値を問い直すこと」は未だ道半ばです。
そのきっかけとして、ひとりひとりの価値を捉え、個別化と包摂を実現する体験を提供することを、DXの実践として掲げています。
例:医療の価値を高めるためのデータ利活用・共有
例:自然災害時に被災者をケアするために本人の医療データを使う場合
例:感染症患者のデータを、流行を防ぐために用いる場合
例:稀な患者や希少がんに対するPrecision Medicineの治療開発を行う場合