ゲイツ財団による出資もワクチン開発を早めた

このように、データを共有したことによって、これまでほとんど不可能だったことをクリアしているというのは、非常にポジティブな動きですね。

また、ワクチン開発が早くなったもう1つの理由として、ゲイツ財団が有望なワクチンに、先回りして出資したということもあります。いわゆる「ソーシャルグッド」のような、まさにビル・ゲイツの引退後の生き様を象徴するエピソードなのですが、早い段階でいくつかの工場を公正なワクチン生産のために押さえていたと言われています。

【尾原】そうですね。工場7カ所の建設に数十億ドルを拠出すると発言していました。ワクチンそのものがダメになってしまい、私財が無駄になる可能性があるにもかかわらず、資金を投じたんですよね。

【宮田】おっしゃる通りです。モデルナとアストラゼネカのワクチンはそうして作られました。さらに、途上国への供給にも貢献しています。

こうした意味でも、国を超えた連携の中には目を見張るものがあり、まさに共鳴している部分があると思います。

世界地図とさまざまなデバイス
写真=iStock.com/metamorworks
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AIを使えば先回りして変異株の対策ができる

【尾原】イスラエルはワクチン接種で先進国でしたが、元々軍事をはじめとする暗号技術大国であり、遺伝子やタンパク質はある種記号のかたまりなので、医療・創薬の領域の開発でもリードしています。あるカンファレンスでは、AIを使ってタンパク質構造を特定しかつ群でシミュレーションすることによってリアルで実験をしなくても薬の有用性を担保できるような技術やノウハウが、どんどん表に出されています。

ワクチン関連でいえば、宮田先生がおっしゃるように、変異株の変異パターンはほぼ特定できているので、AIを使うと先回りして追いかけることもできる。つまり、先回りしてワクチンや効果がある薬の開発につながるパターニングができる、といった話もありました。

【宮田】それもやはり、データを共有したことによる成果ですね。

これまでデータの利活用はさまざまな分野で行われてきました。ヘルスケアの分野ではデータを活用して個別最適を実現し、平均値ではなくひとりひとりに応じたオーダーメイドの対応が検討されています。そこには、医療分野が長らく思い描いてきた「個別化医療」への道筋があります。