テクノロジーも社会のシステムも激しく進化する中、人はどうやってサバイバルすればいいのか。マッキンゼー・アンド・カンパニーや、NTTドコモ、グーグル、楽天など転職13回を誇るIT評論家の尾原和啓さんは「“自分の好き”や“自分が納得する生き方”にこだわってきた結果、周囲の人にとって価値のあるものを与えられるようになった。“自己中心的利他”によって仲間と助け合いながら、自由に、幸せに生きることができる」という――。

※本稿は、『プレジデントFamily2023秋号』の一部を再編集したものです。

IT評論家の尾原和啓さん
撮影=的野弘路
IT評論家の尾原和啓さん

スマホケースが売れるワケ

スマホ売り場に行くと、いろいろな種類のスマホケースがズラリと並んでいますが、これってちょっと不思議な光景だと思いませんか?

スマホを保護するという機能的には、一つ持っていれば十分のはず。そんなに壊れるものでもないですよね。それでも売れているのは、一人が複数のスマホケースを買うから。デザインの違うものをいくつか持って、用途や気分で付け替えるのです。なかには数万円もするブランド物のケースにこだわる人もいます。

つまり、“役に立つ”という機能だけでスマホケースを選んでいるのではないのです。

日本が右肩上がりの経済成長をしていた時代はこうではなかった。誰もが欲しがる高機能な商品にみんなが飛びつき、同じ商品を競い合って買っていました。役に立つものを均質に、安く、早く提供するのが企業にとっての“正解”でした。

ところが企業がせっせと良質な商品を作り続けた結果、世の中には「ないもの」がなくなりました。おいしい食べ物も、おしゃれな衣服も、家電だって、昔よりはるかに低価格で誰もが手に入れられるようになりました。

つまり、役に立つだけのものは、誰も欲しがらない。「他の人は知らないが、これは自分にとっては意味があるんだ」という、買う人個々人の納得感とか、こだわりとか、なぜか心引かれるとか、そういう部分に響いているわけです。みんなが自分の心に従って、買うものを選ぶ時代ということもできます。

これは商品だけの話ではありません。人材についても同じです。かつては自分自身を会社に最適化させ、ミスを犯さず、身を粉にして働くことが“正解”でした。そうしていれば終身雇用制度と年功序列によって守られ、一生安泰、という黄金の図式がありました。

でも、もうそんなものはない。頭がいいとか、知識があるとか、モノ作り時代に重視されたスペックは、もはやAI(人工知能)にはかないません。

みんなが自分の心に従う時代には、そうしたスペックよりも、その人の中身が大事になります。「この人といると、なぜか心が安らぐな」とか「ぜひこの人と一緒に難しい仕事にチャレンジしてみたいな」と思われる何かを持つ必要がある。

言い換えれば「誰かにとって意味のある“内面”を持った人間」にならなければいけないというわけですね。「みんなと同じ」ではなく「自分ならでは」「自分らしさ」「自分にとって」を追求していくことが大切になるのです。

ずいぶん自己中心的な生き方だなと思うかもしれませんが、そういうことではありません。正解のない時代には、自分で自分なりの答えを見つけていかなければならないということ。「自分の人生を自分で決められる人間」にならなければいけないのです。自分の好き嫌いや意見、価値観をしっかりと持ったうえで、自分にとってふさわしい生き方を自分自身でしっかりと選べる人間に育つべきだということです。

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