うまくいかなくてもいいから、リスクを取ってやる

【田中】Amazonは97年の上場時の株主レターに「Day 1」と書いてあって、毎年の株主向け書簡にも97年の株主レターを添付しています。また、ベゾスCEOのデスクがあるビルは「Day 1」と名付けられています。それだけ強いこだわりを持っているのだと思います。

【田中】私は本質的なデジタルトランスフォーメーションは、Day 1カルチャーのように、スタートアップ企業のようなスピーディーでフレッシュ、そして謙虚なカルチャーがないと実現できないのではと考えています。結局、デジタルトランスフォーメーションは企業文化の刷新まで手を付けるのが重要だと思っていますので。

そういう意味でも世界一のデジタルシフトの会社であるAmazonが、常にDay 1を気にしているところは、全ての日本企業が見習うべきだと思います。井野川さんご自身はDay 1にどういう思いを持って日々お仕事をされているんですか?

【井野川】お客さまのために、という点に加えると、判断のスピードを早くすることが重要だと思っています。

Amazonで最初に考えるのは、一旦判断をすると戻れない「1 way decision」なのか、一度判断してもうまくいかない場合は戻れば良い「2 way decision」なのかです。2 way decisionならば、うまくいかなくても戻れば良いので、リスクを取ってやってみればと言われます。

「7割の情報で意思決定する」がアマゾンの常識

【井野川】必要な全部のデータが揃っていれば正しい判断ができるかもしれません。しかし全ての情報が揃えられるケースは非常に稀です。全ての情報が揃って、判断の精度が90%から95%になるのを待つより、どんどん進めていく、2 way decisionを推奨するカルチャーがあると思いますね。

【田中】ベゾスCEOもDay 2を防ぐため「7割の情報で意思決定する」「1 way decision」「2 way decision」について、株主レターの中で書かれていますね。7割の情報で意思決定をするということには、とても衝撃を受けました。

【井野川】Amazonはテストが好きな会社で、例えばオンライン上で、商品やメールの文言をいろいろ変えてみて、開封率やクリック率を確認しています。いろんなテストをすることで、判断や、文言、画面の精度を上げていくことは常にやっていますね。

【田中】ちょうど日本時間では今朝(7月31日当時)、Amazon本体の4‐6月期の決算が発表されました。このタイミングで最高益を達成し、それにも関わらずDay 1精神を継続しているところが、本当に素晴らしいなと思います。

井野川拓也氏