大切なのは「信じること、そして待つこと」
「ところで学校は決めましたか?」
「就学相談に行ったら、この子は支援学級がいいのではと言われたんです。でも、夫婦でよく考えてみて、特別支援学校を選びました。春から支援学校に行くつもりです」
「そうですね。焦る必要はありません。オムツも取れて、発達が伸びていけば、途中から支援級に移行してもいいのですから」
「はい。今はこれでも成長したと思います」
私はお母さんに聞いてみました。
「自閉症のお子さんを育てる上で何が一番重要だと思いますか?」
「待つことではないでしょうか? 私たちはそう思います」
信じること、そして待つこと。それは確かに親にしかできないことかもしれません。私はミキちゃんが一番大変だったころを見ていませんので、両親の本当の苦労は理解していないかもしれません。今後私にできることは、排便の自立を手伝っていくことです。ご夫婦が焦らず待ち続けたように、私も長期戦で粘り強く診療していこうと思いました。
それからさらに8週後、ミキちゃんの一家がクリニックにやってきました。今日のミキちゃんはお父さんと手をつなぎながら自分の足で歩いています。そしてお父さんに促されて一人で椅子に座りました。
「お、ミキちゃん今日は抱っこじゃないね」
お母さんが「ほら、言ってごらん」と声をかけます。ミキちゃんは私の方を向いて、
「おねがいします」
と、たどたどしく言いました。
私は少しうれしくなって「こちらこそ」と返事をしました。