発達障害の子を育てる親の悩みの一つは、きょうだいにどう接するかだ。小児科医の松永正訓さんのクリニックに通う三きょうだいは、真ん中の弟が自閉症だ。母親は「ある悩み」を松永さんに打ち明けた――。(第2回/全3回)

※本稿は、松永正訓『発達障害 最初の一歩』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

ベッドと目覚まし時計
写真=iStock.com/MagMos
※写真はイメージです

双子のソラ君とリク君がやってきた

私のクリニックには双子の患者がよく来ます。理由は単純なことで、クリニックの廊下をかなり広く作ってあるため、双子用の横に広がったベビーカーも入ってくることができるからです。

ソラ君とリク君も双子のきょうだいです。ソラ君がお兄ちゃんでリク君が弟です。私が二人に初めて会ったのは今から8年前です。双子のお子さんが予防接種や健診にやってくると、二人の泣き声で診察室はとても賑やかになります。お母さんも子どもを抑えるために大忙しです。お父さんが一緒に来ることもあれば、お祖母ちゃんが一緒に来ることもあります。

ソラ君とリク君は2000グラムを少し超えた体重で生まれてきました。身長も体重も順調に伸びていき、たちまち標準の中に入ってきました。首据わりは4カ月、座位は6カ月、寝返りも6カ月、ハイハイは11カ月。二人とも同じでした。一人歩きは、ソラ君が1歳1カ月、リク君はやや遅く1歳5カ月でした。

1歳8カ月で二人は1歳6カ月児健診に私のクリニックへやってきました。裸にしたときから二人は大泣きでした。身長・体重・頭囲・胸囲を測定し、診察室へ入ってもらいましたが、私の顔を見ると二人はさらに大泣きになりました。

「意味のある言葉が出ますか?」に「いいえ」

診察の前に私は集団でやってきた健診の問診票のカーボンコピーに目をやりました。ソラ君はすべての項目をパスしており、医師への連絡事項にも「無」に丸がついていました。一方、リク君の方はちょっと違っています。「意味のある言葉が出ますか?」に「いいえ」が付いており、知っているものへの指さしにも「いいえ」が付いています。

しかしそれ以上に気になったのは、医師への連絡事項です。「猫背とお腹の出っ張りがあり、心配されておりますので、よろしくお願いします」と書かれていました。私はこの大泣きの状態で猫背とお腹の膨らみを診察するのは至難の業だと思いました。

それでもなんとか、ソラ君とリク君の順番に、視診・聴診・触診を行いました。1歳半で猫背なんてあり得ませんから側弯症のチェックだけは行いました。お腹の出っ張りで一番こわいのは小児がんです。泣かれるとよく分からないのですが、時間をかけて触診をして明らかな腹部腫瘤はないと判断しました。

「お母さん、二人とも大丈夫だと思います。リク君の背中もお腹も大丈夫でしょう。精密検査は必要ありませんが、気になったらいつでも来てください。それから、二人とも貧血があって千葉県こども病院で定期的に診てもらっているんですね。じゃあ、大丈夫でしょう。うちでも、こども病院でも、いつでも相談してください」