自閉症の子が安心して遊べる施設があればいい

「それじゃあ、外遊びもストレスですね」
「そうなんです。ソラと妹のウミが可哀想なんです。構ってあげられなくて。だから自閉症の子が遊べる施設があればいいなって思うんです。大人たちがみんなで自閉症の子どもたちを見てくれて、私がリクを見ていなくても大丈夫な場所なら、ソラもウミも楽しいと思うんです」
「そうですねえ。確かにそういう場所ってないかもしれませんね」
「いつもリクのことを見ていて神経が休まらないんです。そうすると、きょうだいに手をかけられないんです。それが負い目になっています。公園に行くのも段々少なくなってきて」

お母さんは切なそうな表情になりました。

最大の心配は、兄弟が同じ中学校へ通うこと

「今の最大の心配はなんですか?」
「やっぱり先のことです。中学校です。中学になると、支援級がある学校の数が減るので、さすがにソラとリクは兄弟一緒に地元のC中学校に行くことになると思っているんです。そのときに、ソラがどう思うのか、本人に聞いてみたい気持ちがあります。でもそれ以外の選択肢はないんです」
「中学と言えば思春期ですから、ただでさえ難しいですよね」
「そうやって考えていくと、この先どうなってしまうのかなって不安はあります。大人になってから……。でも、やっぱり診断を受けたときがどん底でした。今は、やるしかない。生きていくしかないって考えています」
「そうですね。できる準備は少しずつして。立ち入るような話ですが、療育手帳は取りましたか?」
「はい。桜木園の先生に、『もし嫌じゃなかったら、考えてみたら?』と言われて」
「手帳を取得するのを嫌がる人もいますが、取っておいた方がいいと思います。税金の控除とか交通費の割引とか。小さな金額でも将来の蓄えになります」

療育手帳の申請は区の保健センターに提出します。すると児童相談所で知能検査を受けることになり、IQが70未満だと知的障害と判定されます。そして障害の程度によって、特別児童扶養手当などが支給されることになります。

松永正訓『発達障害 最初の一歩』(中央公論新社)
松永正訓『発達障害 最初の一歩』(中央公論新社)

「はい。そうしたいと思います」
「放課後デイは、行っていますか?」
「ええ。そこの施設はしっかりしている所で、療育も続けてもらっています」
「何かあったらぜひ相談してください。ぼくに分からないことがあっても、相談できる開業医の仲間もいますから」
「はい、ありがとうございます」

療育センターへの通院をやめているとすると、リク君に関わることができる医者は私だけということになります。これからもリク君の家族はいくつかのハードルを越えていかねばなりません。そのサポートができればいいなと思いながら、私は電子カルテに向かってタイプする指に力を込めました。

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