3歳を過ぎたばかりのカッ君が、小児科医の松永正訓さんのクリニックを受診したとき、言葉が出ず、座っていられなかった。この子は普通の小学校に通うことは可能なのか。松永さんは「発達障害の診断は微妙で難しい。焦らず、ゆっくりと決めていけばいい」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、松永正訓『発達障害 最初の一歩』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

母親と息子が手を繋いで草の上を歩く
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです

はっきり聞き取れない言葉で喋るカッ君

3歳を過ぎたばかりのカッ君がクリニックを受診しました。3日前から鼻水・咳があり、今日になって下痢も始まったそうです。カッ君はこれまで何度かクリニックを受診しています。しかし、1歳6カ月児健診はうちのクリニックではやっていません。つまり、2歳を過ぎた頃からうちのかかりつけになったわけです。

私はお母さんに問診を重ね、カッ君の胸と腹を診察しました。診断は特に難しくありません。普通の風邪という判断で大丈夫でしょう。

カッ君は診察室内のポケモンの絵を見ながら、声を出しています。それが私にははっきりと聞きとれません。

「らららん、らね~」

こんな感じです。私はお母さんに尋ねてみました。

「お母さん、カッ君はしっかり話しますか?」
「それが……単語は出るんですけど、文章にならなくて」
「2語文は喋りますか? これ・ほしい……とか」
「単語のくり返しなんです。ちゃんとした2語文は出ません」

両親とのコミュニケーションは可能、友だちとも関われる…

カッ君はお母さんの膝から下りると、スタスタと診察室とつながっている処置室へ走って行きます。慌てて看護師があとを追います。

「その単語を使って、お母さんとコミュニケーションが取れますか?」
「あ、それが取れるんです。何を言っているか私には分かるんです」
「お父さんは?」
「……主人も分かっているようです」
「身振り手振りや顔の表情でお母さんに何かを伝えることはできますか?」
「それもできます」
「同じ3歳くらいの子どもに関心を持って接しますか? つまり、ほかの子に興味がある?」
「大丈夫です。お友だちと遊んでいます」
「何かの物や動きに、頑固に執着することはありませんか?」
「執着ですか? 特に気になりません」
「どんな遊びが好きですか?」

お母さんは一瞬考えてから答えました。

「ミニカーみたいなおもちゃの車でよく遊んでいます」
「どういう風に? 車を走らせていますか? それとも並べて眺めている?」

ちょっと戸惑うように答えます。

「ブーって言いながら走らせていますね」
「おままごととか、ごっこ遊びとか、何かの振りをするとか、できますね?」
「はい。包丁で切るまねとかしています。戦隊物の振りもしますよ」

ここまでの会話で多くのことが分かります。カッ君は両親との間でコミュニケーションが可能です。ほかのお友だちとの間で社会的コミュニケーションも成り立っています。遊び方に想像力があり、限定された反復的なこだわりはありません。