小児科医の松永正訓さんのクリニックには発達障害の子供が多数訪れる。5歳半のミキちゃんは自閉症でオムツにしか便をしない。そのままでいいのだろうか。松永さんは「自閉症の子を育てる上で一番重要なのは待つこと。無理強いをするのでなく、排便の自立を手伝うという姿勢が大事になる」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、松永正訓『発達障害 最初の一歩』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

公園でお互いの手を握り合う母と娘
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです

5歳半でオムツをはいたまま

5歳半のミキちゃんが私のクリニックを受診しました。大柄なお父さんが椅子に座り、ミキちゃんはお父さんに抱っこされています。かたわらにお母さんが背筋を伸ばしてスッと立っています。

私は問診票に目を落としました。3カ月前からミキちゃんは便秘だそうです。立ったままオムツに便を出すと言います。5歳半でオムツ、そしておとなしくお父さんに抱っこされている姿。私はミキちゃんに「こんにちは!」と声をかけてみましたが、返事はありませんでした。私に対して関心がないというような表情です。

お母さんが説明してくれました。

「ミキは自閉症なんです。こだわりが強くて、うんちをしないと決めるとなかなかしないんです」
「ああ、そういうことですね。これまではどこのクリニックで診てもらっていたんですか?」

お母さんの答えは、千葉市から遠く離れたX市のクリニックでした。

「え、そんな遠くから来たんですか? 大変だったでしょう? これまではどういう便秘対策をしてきたんですか?」

2週間後、再びやってきたミキちゃん

私はお母さんから話を聞いて、少し便秘の治療を整理してみることにしました。

「飲み薬は酸化マグネシウムの1種類に絞りましょう。夕食の後に飲んでください。寝ている間に便が緩くなります。翌朝、朝食を食べると大腸が反射で動きますので、その反射を利用して柔らかい便を出すのです。ただ、ミキちゃんは、こだわりがあるから我慢してしまうかも。そのときは、座薬を入れてください。そして最低でも二日に1回は便を出してください。便を出させないと、便が出る子になりません。まず、2週間やってみましょう」

それから2週間後、ミキちゃんは両親と共にクリニックにやってきました。前回と同じように、お父さんに抱っこされています。

「どうですか? 酸化マグネシウムを飲んでみて?」

お母さんが答えます。

「やはり座薬を使わないと出ないんです。二日に1回座薬を入れています。でも座薬を入れれば必ずうんちは出ます」
「それはいいですね、とにかく出すことが大事です」
「はい、食べる量も少し増えました。便が出ているおかげだと思います」