「座薬で出すこと」にこだわっている

「ところで、地元で療育は受けていますね? 今、年長さんですから小学校のことも考えていますね?」
「はい。療育は通っています。月に1回、個別と集団でやってもらっています。主に言葉と運動の療育です。進路については特別支援級か、支援学校か迷っています」
「どちらがいいとは一概に言えません。支援学校には支援学校のよさがあります。何と言ってもお子さんをよく見てくれます。そういう部分が手厚いんです。ミキちゃんにふさわしい学校を選んでください」

私は、今度は4週間分の薬を出しました。

その次にミキちゃんが受診したときも、三人は同じ配置でした。ミキちゃんはしっかりとお父さんに抱っこされています。

「その後の経過はいかがですか?」

今日もお母さんが答えます。

「同じなんです。二日に1回座薬を入れて出しています。と言うか、座薬で出すことにこだわっているようなんです。毎日夕方、5時になると座薬を入れてって言うんです」
「う~ん、そうですか。ミキちゃんのこだわりですね。だけど、出ないよりぜんぜんいいですよ。健常児のお友だちでも、頑固な便秘があって二日に1回座薬で出している子はたくさんいます。こだわりをむりに変える必要はありませんから、出すことができればよしとしてください」
「分かりました。続けてみます」

1歳10カ月のとき、急にミルクを飲まなくなった

私はがらりと話を変えました。

「ところでミキちゃんはどういう経緯で自閉症の診断がついたんですか? 1歳6カ月児健診や3歳児健診で分かったんですか?」
「ミキは1歳半のとき、まだ歩かなかったんです。ハイハイができて、ようやくつかまり立ちという感じです」
「言葉は何個くらい?」
「出ませんでした。指さしもできませんでした」
「じゃあ、それで専門施設に紹介になって?」
「いえ、そのときは、かかりつけの先生に様子を見ようと言われたんです」
「そうなんですね。ではどうやって診断が……?」
「長い話なんですけど……。1歳10カ月のとき、急にミルクを飲まなくなってしまったんです。それまでは離乳食のほかにミルクを200ml飲んでいたんですが、急に70mlに減ってしまったんです。おかしいと思っていたら、もう、ゼロになってしまいました」
「急にガクンと減ったんですね?」
「そうなんです。体重も減りました。痩せてしまって成長曲線の正常値からも外れてしまいました。おまけに離乳食も自分から食べようとしないんです。両手をダラリと下げてしまって動かさないんです」
「それはあまり聞いたことのない症状ですね」
「ですから私が食べさせていました。この頃から退行が始まって、つかまり立ちもできなくなりました。2歳2カ月の頃です。かかりつけの先生は、これは大きな病気かもしれないと言って、X総合病院の小児科に入院の手はずを整えてくれました」

赤ちゃんの哺乳瓶
写真=iStock.com/Magone
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