※本稿は、松永正訓『患者の前で医者が考えていること』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
大学病院の医者の過酷な実態
世間の人の医者に対するイメージは「お金持ち」、でも「忙しそう」という感じでしょう。これは、実は当たっていません。
私は長く大学病院に在籍しましたが、医者と名乗ると、「じゃあ、お金持ちですね」という反応がよく返ってきました。たとえば、車を買いに行ったときとか、生命保険に加入するときとか。
ですが、大学病院の医者は文部科学省の職員です。つまり、教官にすぎません。そのため、医者としての技能を認められて、その分、給与が上がるということはありません。子どもの命をどれだけたくさん救っても、何か手当が加算されるわけでもないのです。
それに、しょっちゅう学術集会に参加しますので、支出が多いのです。学術集会はすべて自腹を切って参加します。特に国際学会となると、往復の航空運賃、ホテルの宿泊費、学会参加料(海外は一般的にかなり高額)のために、1カ月分の給料がすべて吹っ飛びます。
44歳で貯金は200万円
ではどうやって生活しているかというと、アルバイトです。え、信じられない? 大学病院では教授でも週に1回はアルバイトをやっています。もちろん、文部科学省に許可申請を出します。こうでもしないと生活が成り立たないのです。
はっきり言えば、大学病院の勤務医はメチャメチャ忙しいけど、お金は全然貯まりません。私が19年在籍した大学を辞めて開業したときは、貯金が200万円でした。44歳で200万円。寂しいですね。大学病院を辞めるときには、確かに退職金をいただきました。でも……255万円でした。これもちょっと寂しくないですか?
19年働いて貯金が200万円です。何か贅沢をした? 確かに、千葉市のごく普通の住宅街に一軒家を建てました。でも豪邸ではありません。3LDKの小ぶりの家です。あとは、子どもを私立の中高一貫校へ行かせましたが、贅沢と言えばそれくらいでしょう。老後は年金で何とか細々と生きようと思っていました。