精神疾患や難聴なども生活上の「悩ましさ」は大きい

上述のように、死亡と死亡に至らない疾病の生活・就労上のマイナスの影響を総合化した指標として傷病ごとのDALY値が算出されている(注)。これは、「死が早まることで失われた生命年数と、健康でない状態で生活することにより失われている生命年数を合わせた時間換算の指標」であり、ここでは「寿命・健康ロス」と呼ぶ。健康政策上の財政配分基準などとしても利用される。

(注)DALY(ダリー、“disability-adjusted life year”)の訳語としては直訳した「障害調整生命年」が通常用いられるが、これでは傷病で失われた年数という趣旨が伝わりにくいので、ここでは「寿命・健康ロス」と呼ぶものとする。

図表4には、OECDが2002年の値として推計した日本の各傷病のDALY値の構成比をOECD平均と比較する形で示した。

「がん」は、各部位(肺、胃、大腸・直腸、肝臓)についても掲げたが、全部位では17.8%と傷病の中で最も大きい。「がん」は死因別死亡率でも圧倒的にトップとなっているので、寿命をそれだけ縮めることによる損失が大きいためである。

OECD全体においては13.2%であるので、これと比較しても大きくなっており、がんは特に日本においては最大の課題であることが明確である。

脳卒中で寝たきりになったり、リハビリ生活が長引いたりする場合が多いので、健康ロスの大きい「脳血管疾患」のDALY値が「がん」に次いで大きくなっている。死因2位の「心疾患」は、生活上のリスクは「脳血管疾患」より小さいのでDALY値では5位となっている。

「働けない」病気は経済的ロスをもたらす

3~4番目には、「うつ病・躁うつ病」とアルツハイマー病など「認知症」が来る。これらの精神疾患は、死因別の統計では上位に登場しないが、健康という側面からは損失の大きな病気であるため、DALY値では上位に位置する。

精神疾患の健康ロスは当人や周囲の者が働けないことによる経済ロスにつながる。特に勤労世代においては当人が働けないことが大きな負担となる。そうしたことから、当人や周囲の苦痛・心労ばかりでなく経済的な負担の面からも克服が大きな課題となっているのである。ここで紹介したDALY指標ではじめてその深刻さが明らかになる。

日本の自殺率は先進国中トップクラスであることから、OECD全体と比較しても「自殺」のDALY値のウエートが高くなっている。OECD全体ではむしろ「アルコール乱用」のほうが深刻なのと対照的である。

さらに、「自殺」に続いて、「難聴」(加齢による聴覚障害)や「関節症」が登場し、「肺がん」や「胃がん」より大きなウエートを占めているのは意外だとも言えよう。それだけ健康ロスが巨大なのだ。

このように、DALY値から判断すると、死因や患者数では目立たなかったものの、精神疾患や難聴なども、生活上の「悩ましさ」は、実は、非常に大きいことが理解されるのである。

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